バイデン政権の置き土産 「CHIPS法」の効果を検証する:米シンクタンクが報告書を発表(4/4 ページ)
米シンクタンクが、CHIPS法(CHIPS and Science Act)の効果を評価する報告書を発表した。これまでに助成が確定あるいは覚書を締結したプロジェクトが不可欠だったかどうかを、率直に評価している。
CHIPS法は目標を達成する可能性が高いが、関税には注意が必要
報告書は、CHIPS法が国内半導体生産の増加と国家安全保障の強化という目標を達成する可能性が高いと示唆している。報告書は、20%の世界市場シェアを維持する長期的な実現可能性についてはやや懐疑的であり、研究開発のインセンティブやその他の代替策に重点を置くことを推奨している。また、利益の大部分は、いずれにしても投資していたかもしれない財務的に健全な企業に渡る可能性があり、サプライチェーンの回復力を確保するために代替策を検討する必要があるとも指摘している。
さらに、米国の半導体産業を強化するための補助金の代替手段として関税についても議論していて、「関税はCHIPS法ほど効果的ではないだろう」と警告している。
報告書は、2023年の米国市場における半導体の売上高が約700億米ドルになるとし、20%の関税で国内の半導体価格が20%上昇した場合、国内売上高による追加収入は年間140億米ドル(700億米ドル×20%)になると主張している。また、2023年に輸入半導体の売上高が510億米ドルだった場合、その売上高に対する関税収入約100億米ドルは、国内メーカーではなく米国財務省に直接入ることになるとしている。
従って、20%の関税は、米国の半導体製造業界に年間40億米ドル(140億米ドル−100億米ドル)の利益をもたらすにすぎない。世界と米国の半導体価格の20%の差は国内投資を刺激するが、米国内の半導体メーカーはCHIPS法によってもたらされるほどの資金力を持たないだろう。関税の利益の累計額がCHIPS法によってもたらされる約2000億米ドルの補助金利益に近づくには、何年もかかるだろう。
報告書には、「米国の半導体ユーザーは、海外の競合企業(自動車、電子機器、AIなど)に比べて不利になるだろう。歴史の教訓として、EUの17%の関税は、EUの半導体産業の促進において失敗だと判断された。同等の関税が米国にとってより効果的であると証明される説得力のある理由はない」としている。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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