半導体製造でのPFASを除去 3年以内の商用化目指す米国研究者:プロトタイプ製作も完了(2/2 ページ)
イリノイ大学アーバナシャンペーン校で化学工学を研究するXiao Su氏のチームは、電界駆動でPFASを除去できるナノろ過技術を発表した。チームは商用化を目指していて、ベンチャーキャピタルや半導体メーカーが関心を寄せているという。
口を閉ざす大手半導体メーカー
大手半導体メーカーは、自社がどれだけのPFASを排出しているかについては言及を避けている。TSMCはEE Timesに対し「2006年以来、長鎖PFAS化合物をベースとするフォトレジストの代替を進めてきた」と説明した。同社の広報担当者は「引き続き、代替材料の開発においてサプライヤー各社と密接に連携していく」と述べたが、排出量に関しては詳細を明かそうとしなかった。
Samsung ElectronicsはEE Timesの取材に対し「この件に関しては、自由に情報を共有することができない」としている。
Intelは「業界パートナーや研究グループとの協業によって、PFAS使用量を削減するための方法を模索しているところだ」と述べる。同社の広報担当者は「Intelの廃水処理/再生利用施設では、廃水に排出されるPFAS量全体の90%以上を除去できることが実証されている」と述べるが、排出量の数値は開示しなかった。
同担当者は「Intelは、PFAS代替品の特定/開発/導入や、環境管理の向上を実現すべく、米国半導体工業会(SIA:Semiconductor Industry Association)のPFASコンソーシアムの設立支援の主導的役割を担ってきた。同コンソーシアムの一員として、PFAS代替品とより効果的な低減方法の開発を推進するための持続可能性研究プロジェクトにも携わっている」と付け加えた。なお、PFASコンソーシアムは詳細情報を求めるEE Timesの取材を拒否している。
Su氏によると、PFAS化学物質の代替品は存在しないという。同氏は「私たちは常にこの物質を置き換える方法を模索してきた。例えば、フッ素化されていない優れた界面活性剤や、製造で利用可能な他の種類の化学物質などを見つけようとしている。しかし今のところ、優れた代替品は存在しない」と述べる。
また同氏は「半導体業界のような大きな規模でPFASを代替するには時間がかかる。それまで少なくとも今後5〜10年間は、水処理技術がその役割を担うことになるだろう」と付け加えた。
PFAS化学物質の最大手サプライヤーである3Mは2022年からベルギーでの生産を停止している。
代替品はまだ存在せず CHIPS法の支援で前進か
米国のIcahn School of Medicine(アイカーン医科大学)で疫学を研究するShanna Swan氏とStacey Colino氏は2021年に、PFASを含む環境ホルモンと人間の生殖能力の急激な低下には関係があるという研究結果を発表した。この研究は、両氏の著書「Count Down」に掲載されている。
半導体工場では、短鎖高分子から長鎖高分子までさまざまなPFAS化学物質が使われている。Su氏は「われわれが探し求めているのは、超短鎖から長鎖までの幅広いPFASをターゲットにできる手法だ。自然環境には長鎖PFASしか存在しない」と指摘する。
「半導体業界ではその全てが手に入る。私たちの技術開発が半導体業界をターゲットにしているのは、長鎖から短鎖まで全てに対応できるものを実現したいからだ。工場廃水のPFAS濃度は、環境濃度よりはるかに高い」(Su氏)
ジョー・バイデン政権下の米国で始まったCHIPS法(CHIPS and Science Act)は、PFAS問題の解決に役立つかもしれない。Su氏は「CHIPS法には、PFAS削減だけでなく、代替品の調査についても多くの研究要請がある」と述べる。
「業界、連邦政府、研究者はこれらの材料を代替する方法を常に模索していて、フッ素化されていないより優れた界面活性剤や、製造に使用できる他の種類の化学物質を探している。フッ素化物質は非常に強力な特性を持っていて、他のもので再現するのは非常に困難だ。長期的にも短期的にも、代替が何であるかは分からない。現時点では代替品はない」(Su氏)
【翻訳:滝本麻貴/田中留美、編集:EE Times Japan】
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