「フラッシュメモリで」AI演算 消費電力はGPU比で1000分の1に:2025年春にも試作チップが完成へ(3/3 ページ)
フローディア(Floadia)が、SONOS構造のフラッシュメモリを用いて超低消費電力で推論を行うCiM(Computing in Memory)技術を開発中だ。GPUに比べ1000分の1ほどの消費電力で積和演算を実行できるという。2025年春ごろには試作チップができ上がる。
GPT-4演算が手のひらサイズのコンピュータで実現
最終的にフローディアが目指すのは、CiMを3次元積層し、大規模言語モデル(LLM)などを搭載できるようにして推論だけでなく学習の分野も狙っていくことだ。「データセンターではどのくらいの規模でニューラルネットワークを搭載できるかが鍵になるので、2次元実装だといずれ限界が来る」(米田氏)
CiMの3次元積層は次のような段階で開発していく。まずはNOR型SONOSメモリを256層積層したチップを作る。このチップのサイズは、レチクルで製造できる最大チップサイズを考慮し20×20mmを想定している。20mm角のチップを16個、シリコン貫通電極(TSV)でスタックし、1パッケージ化したものが「Cube CiM」だ。このCube CiMをプリント基板(PCB)上に18個実装したものが最終形になる。この最終形には180兆パラメータのモデルを搭載できるという。「GPT-4を超低消費電力で処理できるAIコンピュータを、手のひらサイズで実現できるようになる」(米田氏)
AIの演算で「メモリ」を主役に
フローディアで代表取締役社長を務める奥山幸祐氏は「フローディアの狙いは、“メモリを主役に”することだ」と強調する。「単にデータを格納するだけのところではなく、AIの演算でも主役になることだ。演算するGPUが主役でメモリは脇役のような存在になっているが、それを変えていきたい」
米田氏は「CiMのコンセプト時代は前々から存在するが、それほど簡単に実用化できるものではない。CiMの性能や信頼性は、ほぼメモリに依存するからだ。不揮発メモリの物性や製造プロセス技術が鍵を握る世界なので、回路設計やソフトウェア、アルゴリズムでノウハウを持っていてもすぐに実現できるものでは決してない」と語る。フローディアで最高技術責任者(CTO)を務める谷口泰弘氏は「抵抗変化メモリ(ReRAM)や磁気抵抗メモリ(MRAM)を使ってCiMを実現しようとしているところもあるが、これらの不揮発メモリは記憶素子にトランジスタが使われていないので、ナノアンペアレベルまで電流を絞れない。そのため、当社のCiM技術は絶対にマネできない」と語る。
フローディアは、2023年にシリーズDで10億5000万円の資金調達を完了した。奥山氏によれば、2027年3月の新規株式公開(IPO)を予定している。「2025年はCiMのデモに力を入れ、2027〜2028年にビジネスを本格化させていきたい」(同氏)
現在、フローディアは本社(東京都小平市)と岐阜県に加え、台湾・国立清華大学の敷地内に設計拠点を構えている。本社と岐阜県では計60人超、台湾では約20人が設計開発に従事する。
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