磁場履歴を記憶できる巨大抵抗変化メモリを実現:磁気抵抗比は最大で3万2900%
東京大学の研究グループは、産業技術総合研究所や広島大学、海洋研究開発機構と共同で、印加された磁場の履歴を記憶でき、これを巨大な抵抗変化として読み出せるメモリ(メモリスタ)を実現した。
メモリスタの磁場依存性と印加電圧の履歴依存性を組み合わせて実現
東京大学の研究グループは2025年1月、産業技術総合研究所や広島大学、海洋研究開発機構と共同で、印加された磁場の履歴を記憶でき、これを巨大な抵抗変化として読み出せるメモリ(メモリスタ)を実現したと発表した。今回は、最大で3万2900%の磁気抵抗比が得られたという。この値はMRAM素子の30〜100倍に相当する。
メモリスタは、入力電圧の履歴に基づいて抵抗が変化するデバイスで、次世代メモリやインメモリコンピューティング、ニューロモルフィックコンピューティングなどへの応用が期待されている。
メモリスタは一般的に、絶縁層を金属電極層で挟んだ二端子デバイスで構成される。これまで、電圧でメモリスタの抵抗を制御する研究は行われてきたが、メモリスタの磁場依存性に関する報告は、あまりなかったという。
研究グループは今回、コバルト(Co)や鉄(Fe)、酸化マグネシウム(MgO)、ボロン添加Ge(Ge:B)および、Geからなる多層膜を電極とし、n型半導体ゲルマニウム(n--Ge)をチャネルとする二端子デバイスを作製した。
実験では、3Kという低温環境の中で、開発した二端子デバイスに一定の電圧を印加し、外部磁場の大きさを変えたところ、抵抗が大きく変化することを確認した。素子が低抵抗になった状態で磁場の掃引方向を変えた。そうすると、磁場の履歴を反映してその抵抗に近い状態が維持され、その後高抵抗状態に戻った。これらの結果から、磁場の履歴に応じて抵抗を保持できることが分かった。
開発した素子では、電流−電圧特性として特異な2段階の抵抗スイッチを検出できた。実験で得られた磁場履歴の記憶機能は、高電圧側の抵抗スイッチによるものだが、低電圧と高電圧領域のスイッチングのどちらでも、磁場によってスイッチングが起きる電圧を制御できるという。
今回生じた現象の起源としては、2つのメカニズムを想定している。一つは、「MgO層内のMg空孔がフィラメントを形成して抵抗が変わるモデル」。もう一つは「n--Geチャネル内のインパクトイオン化によるブレークダウンで、必要な電圧が上昇するモデル」である。これらの現象がそれぞれ独自に起こり、今回のような特性が得られたとみている。
今回の研究成果は、東京大学大学院工学系研究科の金田昌也大学院生、新屋ひかり特任准教授、吉田博嘱託研究員、田中雅明教授、大矢忍教授らのグループと、産業技術総合研究所の福島鉄也研究チーム長、広島大学大学院先進理工系科学研究科の武田崇仁助教、海洋研究開発機構の真砂啓技術副主幹らによるものである。
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