スピントロニクスメモリデバイスの消費電力を低減:電圧情報書き込み方式で信頼性向上
大阪大学の研究グループは、ME-MRAMなど次世代スピントロニクスデバイスに用いられる電圧情報書き込み技術(界面マルチフェロイク構造)について、信頼性(安定動作)を飛躍的に高めるための新たな構造を開発した。
強磁性体層と圧電体層の界面に金属バナジウム原子層を新設
大阪大学の研究グループは2024年12月、ME-MRAMなど次世代スピントロニクスデバイスに用いられる電圧情報書き込み技術(界面マルチフェロイク構造)について、信頼性(安定動作)を飛躍的に高めるための新たな構造を開発したと発表した。
STT-MRAMなどのスピントロニクスメモリデバイスは、次世代半導体不揮発メモリとして注目されている。ただ、STT-MRAMでは情報書き込み時に電流を用いており、ジュール発熱によってエネルギー損失が生じていた。
こうした課題に対し、強磁性体(磁石)と圧電体の2層で構成される界面マルチフェロイク構造を利用したME-MRAM が注目されている。この構造にすると、圧電体のひずみによって磁化の方向を制御でき、情報を書き込む時の電力消費を抑制できるという。
例えば、STT-MRAMに用いられている現行の電流印加方式だと、ビット当たり約0.1pJの書き込み電力が必要となる。これに対し、電圧印加方式だとビット当たり約0.1fJという極めて小さい電力消費で済むという。この他、界面マルチフェロイク構造だと材料の組み合わせが豊富で、室温を含む幅広い温度で動作可能という利点もある。
研究グループは、この界面マルチフェロイク構造に着目。2022年にはCo系ホイスラー合金磁石の一種である「Co2FeSi」を用い、界面マルチフェロイク構造を作製した。これにより、高い性能指標(磁気電気結合係数)と電圧印加による不揮発メモリスイッチング動作を実証した。
ところが、Co2FeSi/Fe/PMN-PT界面マルチフェロイク構造だと、強磁性体層と圧電体層との界面に形成された「アモルファス層」が、上部Co2FeSi強磁性層の結晶配向性を低減させるため、信頼性に課題があったという。
そこで今回、強磁性体Co2FeSi層と圧電体PMN-PT層の界面に、金属バナジウム(V)原子層を新たに設けることで、高い配向性を有する強磁性体Co2FeSi層を実現した。この結果、これまで報告してきた性能指数を上回る値となり、スピントロニクス材料としての最高値を達成した。
今回の実験では、開発したCo2FeSi/V/PMN-PT積層構造により、電界で効率的に磁性が制御できることを確認するとともに、ME-MRAMのような電圧情報書き込み半導体メモリを安定に動作させられることを実証した。
今回の研究成果は、大阪大学大学院基礎工学研究科の宇佐見喬政助教(現在は先導的学際研究機構スピン学際研究部門講師)、同研究科修了生の真田祐彌氏、浜屋宏平教授、大学院工学研究科の白土優准教授らによるものである。
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