複雑さを増すサプライチェーン 経営層とのコミュニケーションの課題も:一部ではAI導入コストが逆風に(2/2 ページ)
グローバルサプライチェーンは現在、コミュニケーション上の課題や在庫レベルの変化、関税、新技術の登場などによって複雑な状況にあり、グローバルな製造戦略や在庫、貿易関係などを根本的に再検討する必要に迫られている。各種調査でこのような動きがフォーカスされ、さまざまな分野の企業にとっての潜在的な逆風やチャンスが明らかにされている。
一部ではAI導入コストが逆風に
米国の市場調査会社Edgewater Researchは、世界のテクノロジーサプライチェーン51社の在庫データ(合計2380億米ドル相当)を分析した報告書「Technology Supply Chain Inventory Insights 4Q24(世界のテクノロジーサプライチェーンの動向 2024年第4四半期)」を発表した。
同報告書によると、総在庫日数は前四半期比で5%減、在庫金額は1%減で、典型的な季節的傾向と一致しているという。
しかし、機器メーカーは依然として大きな懸念事項だ。在庫日数は季節的に前四半期比で12%減少したが、前年同期比では大幅に増加している。
アナリストは、高額なAIの導入がこの増加の主な要因である可能性が高く、技術革新の急速なペースが機器メーカーの在庫管理をより困難にしていると示唆している。同報告書は、AIサーバボードは標準的なコンピューティングボードよりも大幅にコストがかかるため、AI導入のコストが上昇していることが機器メーカーの在庫水準に対する逆風となり、この状況が続くだろうと指摘している。
機器メーカーは、予想される季節的なトレンドに比べて依然として在庫が多い状態だが、メモリ価格の下落によって在庫を減らすと予想されるため、2025年前半には部分的に逆転する可能性もある。
特定の市場セグメントを分析すると、さまざまな傾向が明らかになる。流通日数は前四半期比3%増、前年同期比1%増で、アジアを拠点とするディストリビューターが金額および日数ベースで増加したのに対し、米国を拠点とするディストリビューターは減少し、傾向が分かれた。アジアでのこうした成長は、関税リスクによる潜在的な先行注文と在庫積み増しによるものである。
アナログ半導体/受動部品メーカーでは、在庫日数が2年ぶりの低水準となり、在庫金額がピーク時を過ぎて減少するなど、さらなる進歩が見られた。Analog Devices、Microchip Technology、onsemi、STMicroelectronics、Texas Instrumentsなどのサプライヤー数社は、在庫管理のために工場の稼働率を下げたと報じられている。TSMC、UMC、ASEでは、在庫日数が大幅に減少した。
コンピューティングサプライヤーも全体的に改善が見られ、在庫日数は前四半期比1%減、前年同期比6%減、金額は前四半期比4%減、前年同期比2%増だった。メモリサプライヤー(Samsung Electronics、SK hynix、Micron Technology)は、在庫日数と金額の両方で大幅な減少が見られ、相対的に最も良い傾向を示している。ただしNVIDIAは例外で、在庫金額は前四半期比32%増、前年同期比91%増となり、強いAI需要に対応するための積極的な準備を反映している。AMDとIntelは、金額が前四半期比でわずかに増加した。
機器メーカーの在庫日数は季節的に前四半期比12%減少したが、前年同期比では20%増加した。一方、在庫金額は前四半期比ではほぼ横ばいだったが、前年同期比29%増加した。Arista Networks、Cisco Systems、Juniper Networksといったネットワーク企業は、日数と金額が前四半期比および前年同期比で減少し、より良い傾向を示した。
ティア1の自動車半導体メーカーは、2024年第4四半期に過去8年間で最大の前四半期比在庫減少を経験したという。生産削減、コスト圧力、部品供給の正常化および年間価格優遇措置の復活などが在庫削減を加速させている。
同報告書は、年末商戦や予算削減を背景に、2024年第4四半期の総在庫動向は季節的な予想とほぼ一致したと結論づけている。
上記のような調査や発表は、コミュニケーションの課題、変化する市場需要や技術の変化による在庫調整、関税、AIを活用したソリューションの出現などに取り組むダイナミックなサプライチェーンの姿を描き出している。2025年もこれらの要因の相互作用が世界のサプライチェーンを形成し続けるだろう。
【翻訳:滝本麻貴/田中留美、編集:EE Times Japan】
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