2倍のビーム数を制御できる無線チップを開発:衛星通信の高速化やエリア拡大へ
東京科学大学は、ビーム数を従来の2倍にできる衛星通信機用「無線チップ」を開発した。衛星通信のさらなる高速化や通信エリアの拡大などが可能となる。
「スイッチ型90度カプラー回路」を新たに考案
東京科学大学は2025年4月、ビーム数を従来の2倍にできる衛星通信機用「無線チップ」を開発したと発表した。衛星通信のさらなる高速化や通信エリアの拡大などが可能となる。
衛星通信では「右旋」と「左旋」という2種類の円偏波信号が利用される。ところが、これまでの無線チップはこれら2種類の信号に対して、独立にビーム制御を行うことが難しかったという。
そこで今回、「スイッチ型90度カプラー回路」を新たに考案し、チップ内部で2種類の円偏波信号をそれぞれ取り出し、独立に位相制御できる集積回路を開発した。これにより、右旋と左旋が重なった二重円偏波を用いた通信でも、2つのビームを独立して制御することが可能となった。この結果、2つの基地局およびユーザー端末との通信が、同時に行えるようになる。
また、設定したビーム角とは異なる方向から届いた信号は利得が大幅に低下する。このため、同時に受信する2つの偏波が干渉するのを抑えられ、高い通信品質とデータレートを実現できるという。
なお、単一偏波を受信する場合は、片方の出力ポートに信号が流れない。このため信号が流れないパスの電源を切ることで、消費電力を半分にすることができる。
今回の研究に用いたフェーズドアレイICは、シリコンCMOSプロセスにより製造した。パッケージはWLCSPを採用している。試作したアレイ基板には、64個のICを実装し256素子でアレイを構成。2つのビームを−70〜70度まで独立して制御できる。消費電力は単一偏波を受信する場合に4.55W、二重偏波を受信する時は9.14Wとなる。
研究グループは試作したアレイ基板を評価し、衛星通信の「DVB-S2X規格」に対応する変調信号が受信できることを確認。しかも、従来の受信機に比べ高性能かつ低消費電力であることを実証した。
今回の研究成果は、東京科学大学総合研究院未来産業技術研究所の加藤星凪大学院生や白根篤史准教授の研究グループと、同工学院電気電子系の戸村崇助教、岡田健一教授らによるものである。
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