AI演算高速化に「磁気」で勝負、TDKが光検知素子を開発:従来比10倍で光を検知可能(2/2 ページ)
TDKは、高速で光を検知できる独自の素子「Spin Photo Detector(スピンフォトディテクター)」を開発し、原理実証に成功した。小型の光トランシーバーを実現できる可能性があり、今後AIデータセンターでの導入が必要とされる光電融合分野に適用できる技術だとする。
光電融合にも適する
スピンフォトディテクターは、光電融合技術への応用に適していると福澤氏は語る。現在、光検知素子で主流のフォトダイオードには、インジウムガリウムヒ素(InGaAs)やシリコンゲルマニウム(SiGe)が使われている。どちらも十分に市場実績があり、InGaAsは高速な光検知が可能、SiGeはシリコン(Si)との相性がよくインテグレーションしやすいなど、それぞれメリットがある。一方で、光電融合への応用については、波長帯域が極めて狭い(近赤外光のみ)、小型なトランシーバーの実現が本質的に難しいといった課題がある。「その点、スピンフォトディテクターはそもそもフォトダイオードとは動作原理が全く異なることもあり、近赤外光まで可視光まで検知できる上に、光電融合もしやすく、今回の原理実証で確認したように検知スピードも高速といったように、既存のフォトダイオードの課題を解決できる」と福澤氏は説明する。「現時点で、そもそも可視光を高速で検知できる素子はない」(同氏)
TDKはスピンフォトディテクターの製品化や量産の時期について「明確には決まっていないが、3〜5年後を想定している」とした。一部の特定顧客には、2025年度中のサンプル提供を予定しているという。
今後は、スピンフォトディテクターのエコシステム形成と、素子の信頼性の確認を進める。スピンフォトディテクターの制御素子を開発する必要があるので、半導体メーカーの存在がエコシステムには欠かせないとする。「フォトダイオードに比べエコシステムは大きく変わるだろう」(福澤氏)。スピンフォトディテクターの寿命については「材料的には寿命が短くなる要素はないが、信頼性はこれから確認していく」と述べた。
データセンター以外の用途としては、拡張現実(AR)/仮想現実(VR)用スマートグラスや航空宇宙、ヘルスケア、イメージセンサーなども想定している。
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