昼夜の小さな温度差で発電する「電解液」 IoT用電源などに期待:熱電変換デバイスに応用可能
電力中央研究所は、常温付近の小さな温度差で発電できる新たな「電解液」を作り出した。この電解液を熱電変換デバイスに応用できることも実証した。昼夜のわずかな温度変化を利用して発電することが可能となる。
IoTセンサーなどを駆動させる電源として期待
電力中央研究所エネルギートランスフォーメーション研究本部エネルギー化学研究部門の松井陽平主任研究員と前田有輝主任研究員は2025年5月、常温付近の小さな温度差で発電できる新たな「電解液」を作り出したと発表した。この電解液を熱電変換デバイスに応用できることも実証した。昼夜のわずかな温度変化を利用して発電することが可能となる。
熱電変換などの環境発電技術は、IoTセンサーなどを駆動させる電源として期待されている。とりわけ、身の回りの比較的小さな温度差を活用し、大きな電圧を得ることができれば、機器への搭載が一気に広がるとみられている。
研究グループは、電気化学反応を用いる「熱−電気化学変換」に着目し、研究を行ってきた。ここでは、酸化還元種における電位の温度依存性(ゼーベック係数)が、デバイスの電圧を決めるという。熱−電気化学変換はこれまで、「フェロシアニド/フェリシアニド」が酸化還元種として用いられることが多かった。このゼーベック係数は通常の水溶液中で−1.4mV/Kレベルである。
そこで研究グループは、ゼーベック係数をさらに高めることに取り組んだ。通常は水溶液として用いられるフェロシアニド/フェリシアニドに、今回はテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)を加えた。水とTBAFの混合物は、常温付近でセミクラスレートハイドレートを形成することが分かっていたからだ。
実験ではこの電解液に2つの電極を挿入し温度差を与えた。この結果、19〜24℃という常温付近で大きな電圧が発生した。ゼーベック係数は−13.8mV/Kとなり、通常の電解液の10倍程度に相当する値だという。
今回は、ゼーベック係数が向上するメカニズムについても解明した。ゼーベック係数は一般的に、酸化還元反応のエントロピーが変化することに由来するといわれている。今回の研究ではエントロピー変化の効果に加え、2つの現象でゼーベック係数を引き上げた。
その2つとは、「セミクラスレートハイドレートの生成・分解による液相中のTBAF濃度」と「フェロシアニド/フェリシアニドの酸化還元電位に対するTBAF濃度」である。なお、この機構に基づく電位変化量の理論的計算と実験結果はほぼ一致したという。
研究グループは、新たに作り出した電解液と通常の電解液で構成される熱電変換デバイスを試作し、常温付近で小さな温度変化が生じると、繰り返し発電することを確認した。具体的に、23℃ではセミクラスレートハイドレートが少なくなって、フェロシアニド/フェリシアニドの酸化還元電位が負にシフト。これにより、片側の電極で酸化反応、もう一方の電極で還元反応が起こり放電する。
放電後に14℃まで温度を下げると、セミクラスレートハイドレートが増加し、フェロシアニド/フェリシアニドの酸化還元電位が正にシフトする。これにより、23℃の時と逆向きの反応が生じ放電することが分かった。さらに放電後、23℃に温度を上げると最初に戻って繰り返し放電が可能になるという。
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