室温動作で高感度の広帯域THz検出器、CMOS回路との集積も容易:応答速度は焦電検出器の最大1000倍
東京農工大学や中国科学院、兵庫県立大学らの共同研究チームは、シリコン素材を用い、室温で高速・高感度、広帯域検出が可能な「テラヘルツMEMSボロメーター」を開発した。CMOS回路との集積も容易で、次世代のテラヘルツセンシング技術として注目される。
1〜10THzの広い周波数帯で平たんな感度スペクトル示す
東京農工大学や中国科学院、兵庫県立大学らの共同研究チームは2025年7月、シリコン素材を用い、室温で高速・高感度、広帯域検出が可能な「テラヘルツMEMSボロメーター」を開発したと発表した。CMOS回路との集積も容易で、次世代のテラヘルツセンシング技術として注目される。
テラヘルツ(THz)波は、非破壊検査や空港での安全検査、がんなどの疾病診断、超高速通信など、さまざまな領域での応用が期待されている。携帯型THz測定器などへの利用も進む。これらの用途では室温環境での動作や、より高い動作周波数が求められている。ところがこれまでは、極低温冷却が必要であったり、動作周波数が1.5THz以下の低周波数帯に限られていたりしていた。
そこで今回、SOI技術で作製したMEMS共振器を用いてTHz検出器を開発した。機械的な共振は、室温付近でも熱膨張効果によって温度変化に対し直線的な応答を示すという。この特性を利用し、ノイズ等価電力NEPが約36pW/√Hz、熱応答時間が約88マイクロ秒という、高感度・高速応答の検出器を実現した。
この結果、応答速度は焦電検出器の約100〜1000倍となり、THz・赤外計測に適していることを実証した。また、1〜10THzという広い周波数帯で平たんな感度スペクトルを示すなど、近赤外領域までの拡張も可能なため、分光など広帯域計測への応用にも適していることが分かった。
今後は、開発したSOI MEMS検出器の実用化に向け、実際の応用環境で性能検証に取り組む。また、大規模な検出器アレイとしての実用化を目指すことにしている。
今回の研究成果は、東京農工大学大学院工学研究院先端電気電子部門の張亜准教授、平川一彦客員教授、工学府電子情報工学専攻博士前期課程の江端一貴氏、飯森未来氏、竹内遼太郎氏、博士後期課程の劉千氏、趙子豪氏、中国科学院上海マイクロシステム情報技術研究所の黎華教授、兵庫県立大学の前中一介教授らによるものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
独自手法でβ型酸化ガリウムを高速成長
東京農工大学の熊谷義直教授らのグループは、次世代パワー半導体の材料として注目されている「β型酸化ガリウム」結晶を、高速に成長させる技術を開発した。このβ型酸化ガリウム結晶は、独自の減圧ホットウォール有機金属気相成長(MOVPE)法を用いて成長させ、高い精度でn型キャリア密度を制御している。グラフェン素子からの波長可変な赤外発光を初観測
東京農工大学の研究グループは、情報通信機構やアデレード大学、東京大学と協働し、磁場下のグラフェン素子において、波長を可変できる電気駆動の赤外発光を初めて観測したと発表した。イオン伝導性と強度を両立 リチウム二次電池用の新材料
東京農工大学の研究グループは、イオン伝導度と力学的強度を両立させた「リチウム二次電池用固体ポリマー電解質材料」を開発した。比較的高い架橋部位の密度を有する架橋高分子に高濃度の塩を溶解させる新たな材料設計により実現した。高性能有機ELデバイス、東京農工大らが開発
東京農工大学と九州大学の研究グループは、有機薄膜の自発分極や電荷輸送特性を精密に制御することで、耐久性に優れた有機ELデバイスの開発に成功した。鉄系高温超伝導磁石、従来最高比で磁力は2倍超に
東京農工大学、九州大学および、ロンドン大学キングス・カレッジは、研究者の知見とAIを融合した設計手法を用い、磁力がこれまでの最高値に比べ2倍以上という「鉄系高温超伝導磁石」の開発に成功した。医療用MRIレベルの磁場安定性を持つことも実証した。メタマテリアル熱電変換で密閉空間内の物体を冷却
東京農工大学と理化学研究所は、メタマテリアル熱電変換により、密閉空間内にある物体を冷却する「非放射冷却」を実現した。電子デバイスのパッケージ内にこもる熱を回収・排出することが可能となる。