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米国半導体の強化は100%関税よりIntel支援 ── 分社発表から1年、結論を急げ大山聡の業界スコープ(91)(2/3 ページ)

100%関税構想は米国企業の負担増と競争力低下を招く。半導体製造強化には、巨額赤字に陥るIntelの製造部門分社化に対する支援こそ急務だ。

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米国の強みと“100%関税”構想の落とし穴

 Intelの没落は、米国半導体業界にとっても由々しき事態だろう。だが、GAFAMなどによるAI半導体需要の創出、これに応えるNVIDIAの台頭など「さすが米国だな」「時代の流れをけん引するプレイヤーがちゃんと出てくるな」などと筆者は素直に感心してしまう。労働コストの高い米国では製造業を活性化させるには困難を伴う。不得意な製造をアジアに任せ、設計やITサービスなどの非製造分野で利益を稼ぐ、という極めて理にかなった戦略で成功を収めている企業が多いことが米国の特徴であり強みなのだ。

 そこへ降って湧いたような「半導体に100%の関税」である。トランプ大統領のコメントを振り返ってみると「半導体に100%の関税をかける。米国内で製造していれば関税はかからないし、製造をまだ始めていなくても(国内製造を)計画していれば関税はかからない」とはしている。ただし、「いったん約束した工場建設を撤回した企業からは、さかのぼって半導体関税を徴収する」という考えも示している。恐らくこれはTSMCの1000億米ドル投資の発表を意識してのものだろう。この件については2025年4月に公開した本連載の記事で詳しく触れたので、ここでは詳細を省くが、トランプ大統領としては「1000億ドル投資は発表通りに実現しろ」と念を押したいに違いない。気持ちは分からないでもないが、これにはトランプ大統領の大きな勘違いが含まれている、と筆者は思う。

 100%関税を払うのはTSMCではなく、Apple、NVIDIA、Broadcom、AMDなどの米国企業だ。仮にTSMCが1000億米ドルの投資を見送って「関税を徴収する」となった場合、TSMCから大量の半導体を購入したこれら米国企業が、過去にさかのぼって税金を払うことになる。別の事例だが、トランプ政権はNVIDIAやAMDに対して「中国向けの輸出規制を緩和してほしければ、中国向け売り上げの15%を政府に支払え」という脅しのような提案も示している。NVIDIAは対中規制強化の影響で中国向けに「H20」を出荷できず、直近四半期だけで45億米ドルの減損処理を強いられている。そのため、たとえ15%の税金を支払ってでもこの提案を受け入れるようだが、政府によるこんな露骨な事業妨害は今まで見たことも聞いたこともない。

関税ではなくIntel支援こそ急務

 そもそも半導体に100%関税などかけても誰も得をしない。GAFAMをはじめとする米国半導体ユーザーの負担が増えるだけだ。米国内には、自動車メーカーや産業機器メーカーといった半導体ユーザーも存在する。日系や欧州の企業に比べて決してシェアの高くないこれらの米国メーカーにとって、半導体の調達コストが2倍になったら、競争力は間違いなく衰退する。恐らくトランプ政権は、この関税政策によって米国内の半導体製造を強化したいと考えているのだろう。だが、それが目的なら、1年前に製造部門の分社を発表したIntelを支援することの方がはるかに重要だろう。

 ようやく今回の本題に話を移す。Intelが2024年9月に製造部門の分社を発表してから、議論の進展が遅いのではないか、と筆者は危惧している。Intelの長い歴史の中でも大きな変換点であり、より慎重な議論が必要なのかもしれない。その一方で、この1年の間にもIntelは大量の血を流し続けているのだ。

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