あと5年で中国が半導体生産能力トップに 米国は先端ノード強化:過熱する競争が変える勢力図(3/3 ページ)
複数の市場調査によると、今後10年以内に、米国が高性能半導体チップの生産能力を約1.3倍に増強する一方、中国は成熟ノードの能力を拡大し、世界ファウンドリー市場シェアでトップになる見込みだという。
米国の生産能力成長を阻害する要因
SIAは、米国の生産能力の成長を阻害する要因として、AppleやBroadcom、NVIDIAなどを含む、米国の世界最先端の半導体設計業界に対する海外からの挑戦を挙げて警告している。また、国内工場の労働者不足も一因になっているという。
SIAは「米国メーカーは現在、設計分野では世界をリードするが、さまざまな課題が生じている。外国政府が半導体設計や研究開発にインセンティブを付与し、米国のリーダーシップに取って代わろうとしているのだ。米国は現在、研究開発の優遇税制率において、競合他国に大きく水をあけられている」と述べる。
半導体研究開発に投資するメーカー各社にとって、米国が確実に競争力のある投資先となるためには、米国議会は既存のAMICを、半導体設計/研究も対象となるよう拡大する必要がある」(SIA)
米国では有資格人材の不足が続いているが、半導体製造施設の建設が急速に進められたためにその問題が悪化している。
SIAは「米国の半導体エコシステムがこの先数年間で成長していくと、それを担うためにより多くの有資格人材が必要になるだろう。SIAとOxford Economicsの共同調査によると、米国は技術者、コンピュータ科学者、エンジニアの深刻な不足に直面している。半導体産業では2030年までに6万7000人の不足が予測され、米国経済全体では140万人の人材ギャップが生じると見込まれている」と述べる。
また、米国は半導体製造に用いる原材料(ベアおよびエピタキシャルウエハー、フォトレジスト、フォトマスク、ガス、ウェットケミカル、基板、リードフレームなど)を海外サプライヤーに依存せざるを得ない。主要半導体メーカーは、米国がこれらの品目に課す可能性のある関税が国内生産コストを大幅に押し上げると警告している。
SIAによると、米国の半導体メーカーは主に台湾、日本、韓国、中国のサプライヤーに依存していて、「米国産業が製造装置や材料へのコスト競争力のあるアクセスを維持することは、国内の半導体生産能力への継続的な投資を支えるうえで極めて重要だ」と述べている。
SIAはまた、成長の勢いを維持するためには、米国が海外の半導体市場へのアクセスを維持する必要があるとも警告している。米国の半導体売上高の約70%は海外顧客向けだ。2024年の米国の半導体輸出総額は570億米ドルに達し、精製石油、原油、航空機、天然ガス、自動車に次いで第6位だった。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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