中国はどうEVバッテリー市場を支配したか 欧米のミスは「固体電池への幻想」:品質への懸念は過去のものに(2/2 ページ)
中国は10年以上にわたって、世界電気自動車(EV)用バッテリー市場における戦略的な台頭を綿密に画策してきた結果、今や欧米メーカーに重大な課題を突き付けるほどの優勢を確立するに至った。中国はいかにして市場の支配を実現し、欧米はなぜ後れを取ったのか。
欧米の判断ミスは「固体電池への幻想」
欧米の戦略的な判断ミスは、優位性を拡大する中国への対応の仕方に表れている。Myersdorf氏は「欧米は『固体電池に賭ければ、中国を打ち負かすことができる』と思い込んでいた」と強調する。
同氏は「QuantumScapeやSolid Powerといった欧米メーカーは、さらなるエネルギー密度の向上と高速充電の実現を目指し、固体電池技術の開発を追求してきた」と述べる。
しかし、こうした戦略には欠点があることが分かった。Myersdorf氏は「固体電池はコストが高いので、ニッチ市場にとどまる可能性がある。量産体制の構築には10〜20年間を要し、全く新しい装置/材料も必要だ。固体電池に注力するのならば多くの場合、既存の巨大工場は活用できない。例えばQuantumScapeでは、セパレーターのためだけに新しいプラットフォームを構築する必要がある」と指摘する。
対照的に中国は、既存のリチウムイオン技術を改良することを優先し、継続的なコスト削減や、サプライチェーンの強化、電解質や安全機構の改善による化学的特性の向上などに取り組んできた。
Myersdorf氏は「中国が『現在利用可能な技術を改良しよう』と取り組んだのに対し、欧米は『次のバッテリーを発明しよう』という間違った戦略的アプローチを採用したことで、今や中国に少なくとも10年間の後れを取ることになった」と明言する。
同氏によれば、時代遅れの自動車メーカーによってEVの導入が遅れたことも欧州の根本的な問題だという。長年にわたって内燃機関技術に投資してきたために惰性が生まれ、EVモデルを積極的に販売するどころか、渋々生産するというような状況だったのだ。
垂直統合のバッテリー製造で差別化
TeslaやBYDのように成功を収めているEVメーカーには、重大な差別化要因として、垂直統合型のバッテリー製造という手法がある。Myersdorf氏は「バッテリーは、自動車全体の約半分を占める。つまりEVは、大量のソフトウェアと設計を備えたバッテリーだといえる」と断言する。
欧米メーカーは通常、自動車製造とバッテリー製造を別々に行うので、バッテリーの仲介業者が入ることで追加コストが生じる。さらに重要なのが「技術をコントロールしていない」という点だ。
中国ではしばしば政府が支援を行い、ローカルなサプライチェーンを構築して効率的な自動車生産を可能にしている。その結果、競争力のある中国製自動車が世界市場に大量投入された。Myersdorf氏によると、イスラエルには2024年の1年間だけで7社の中国自動車メーカーが進出し、好評を得ていたという。中国製自動車の品質への懸念は薄れつつあり、Mercedes-Benzと中国のZeekrのハイエンドEVの価格差は200%を超えることもある。
Myersdorf氏は「この傾向は、欧州だけでなく米国にとっても大きな問題だ。欧米は『EVとは何か』という考え方を転換しなかった」と指摘する。戦略の欠如と混乱によって、欧州の大手自動車メーカーの将来は不透明になっている。同氏は「5年後に利益を上げられる欧州の大手自動車メーカー存在するかどうか、誰にも分からない」と語った。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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