東北大とNICTが量子もつれ光子ルーターを開発、動作実証に成功:低損失で光子の偏光状態に依存せず
東北大学と情報通信研究機構(NICT)は、量子もつれ光子の伝送経路を低損失で偏光状態によらず切り替えられる「光子ルーター」を開発し、その動作実証に成功した。
新たに「電気光学スイッチ」と「光学干渉計」を開発
東北大学と情報通信研究機構(NICT)は2025年9月、量子もつれ光子の伝送経路を低損失で偏光状態によらず切り替えられる「光子ルーター」を開発し、その動作実証に成功したと発表した。
量子コンピュータや量子暗号通信などを実現するには、量子情報デバイス間をつなぐ量子ネットワークを構築する必要がある。ここで重要となるのが、単一光子や量子もつれ光子の伝送経路を自在に切り替えるためのルーティング技術である。ところが、既存の光ルーターや光スイッチは損失が大きく、偏光状態が維持されないという課題があった。
研究グループは今回、新たに開発した「電気光学スイッチ」と「光学干渉計」を組み合わせて「光子ルーター」を実現した。電気光学スイッチは、これまで偏光を切り替えるために用いられてきた2個の電気光学結晶を、互いに90度回転させて配列した。これによって、電気光学結晶を通過する光子がどのような偏光状態であっても、印加電圧に応じた同一の位相変化を受ける素子とした。光学干渉計は、全ての光学素子に対し、光子が浅い入射角(5度)になるよう変形させた。
この結果、最小限の光学素子数で光子ルーターを構成でき、最も低い損失で偏光状態に依存しない光子のルーティング動作が可能となった。
実験では、光通信で用いられる波長域にある単一光子源や量子もつれ光子源を用い、試作した光子ルーターを評価した。この結果、ルーター通過による単一光子の損失は、1.3%(0.06dB)で、光子の伝送経路を切り替える精度は99.3%、光子の偏光が維持される確率は99%以上になることを確認した。
今回の研究成果は、東北大学大学院理学研究科の金田文寛教授とPengfei Wang大学院生、NICT未来ICT研究所神戸フロンティア研究センター超伝導ICT研究室の藪野正裕主任研究員らによるものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
室温で作動する高起電力マグネシウム蓄電池、東北大が試作
東北大学の研究グループは、物質・材料研究機構(NIMS)と共同で、マグネシウム蓄電池(RMB)に向けた非晶質の酸化物正極材料を開発した。これを用いて試作したRMBは、室温で200回以上も繰り返し充放電ができることを確認した。ひずみで強く光るセラミックス材料 高感度センサーへの応用期待
東北大学は、機械的な力が加わると発光する鉛フリーのセラミックス材料について、発光が著しく増強される仕組みを解明した。橋梁などインフラの劣化を可視光で診断できる高感度センサーや、自己発電型ウェアラブルデバイスなどへの応用が期待される。電力損失を半減した鉄系磁性材料を開発 EV応用に期待
物質・材料研究機構(NIMS)は、東北大学や産業技術総合研究所(産総研)と共同で、電力損失を従来の半分以下に抑えることができる鉄系磁性材料を開発した。高周波トランスや電気自動車(EV)の駆動用電源回路といった用途での採用が期待される。リサイクルが簡単な水系電池実現へ、日東紡と東北大が新電極材料
日東紡と東北大学の共同研究チームは、常温(25℃)で水系電池の電極材料として活用できる「有機レドックス高分子」を開発した。この高分子は100℃以下の環境で原料に分解できることも実証した。リサイクルが容易な水系電池の開発が可能になる。「内部が空洞」のマイクロバンプで低温接合、新たな半導体実装技術
東北大学の研究グループは産業技術総合研究所(産総研)と共同で、表面活性化接合とテンプレートストリッピングの技術を組み合わせて、中空ピラミッド構造のマイクロバンプを作製し、異種材料を低温で強固に接合できる半導体実装技術を開発した。タングステンるつぼを用い2200℃以上で酸化物単結晶を作製
東北大学金属材料研究所は、融点が3400℃以上と高いタングステン(W)製るつぼを用いた結晶成長技術を新たに開発するとともに、この技術を用い2200℃以上でさまざまな酸化物単結晶を作製することに成功した。