タングステンるつぼを用い2200℃以上で酸化物単結晶を作製:酸素放出を抑制するプロセスを導入
東北大学金属材料研究所は、融点が3400℃以上と高いタングステン(W)製るつぼを用いた結晶成長技術を新たに開発するとともに、この技術を用い2200℃以上でさまざまな酸化物単結晶を作製することに成功した。
大口径の単結晶が製造できるチョクラルスキー法にも適用可能
東北大学金属材料研究所の横田有為准教授と吉川彰教授らによる研究グループは2025年8月、融点が3400℃以上と高いタングステン(W)製るつぼを用いた結晶成長技術を新たに開発するとともに、この技術を用い2200℃以上でさまざまな酸化物単結晶を作製することに成功したと発表した。
半導体デバイスの製造などに用いられる単結晶の成長には、2200℃以下で使用できるイリジウム(Ir)や白金(Pt)製のるつぼが用いられてきた。W製のるつぼは、2200℃以上の高温で使用できるものの、結晶成長中の酸化物と反応したり、Wが結晶内へ混入したりするため、るつぼとしての利用はこれまでほとんどなかった。このため、高融点材料であるハフニウム(Hf)やジルコニウム(Zr)を含むパイロクロア系や、タンタル(Ta)系酸化物などについては、単結晶の作製が極めて難しかったという。
研究グループは今回、Wと酸化物の反応や結晶内への結晶内へのW混入が、結晶成長時に周囲の断熱材から放出される「酸素」に起因することを突き止めた。そこで、酸素の放出を抑えるための脱酸素化プロセスを導入した。
そして、W製るつぼと脱酸素断熱材を組み合わせた結晶成長技術により、融点が2200℃を超えるタンタル酸ルテチウム(Lu3TaO7)やハフニウム酸ランタン(La2Hf2O7)、ジルコン酸ランタン(La2Zr2O7)の単結晶を作製することに成功した。特に、Lu3TaO7は、密度が約9.7g/cm3と高く、この材料を用いたシンチレーターは高エネルギー放射線を効率よく検出できる。その上、チェレンコフ発光を利用した高密度シンチレーターとしての応用も期待できるという。
研究グループはこの他、酸化スカンジウム(Sc2O3)や酸化ルテチウム(Lu2O3)といった希土類セスキオキサイド、薄膜用基板として用いるスカンジム酸ガドリニウム(GdScO3)などの希土類ペロブスカイト、スカンジウム酸イットリウム(YScO3)などビックスバイト系の単結晶成長にも成功している。
なお今回は、Wるつぼを用いマイクロ引き下げ(μ-PD)法によって、直径が2〜3mmのファイバー状単結晶を得ることができた。開発した技術は、大口径単結晶を製造できるチョクラルスキー(Cz)法にも適用できるとみている。
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