20年でCPUコアの巨人にのし上がった「Cortex-M」:EE Times Japan 20周年特別寄稿(3/3 ページ)
EE Times Japan 創刊20周年に合わせて、半導体業界を長年見てきたジャーナリストの皆さまや、EE Times Japanで記事を執筆していただいている方からの特別寄稿を掲載しています。今回は、鋭い視点とユニークな語り口が人気のフリーライター、大原雄介氏が、この20年で組み込み業界を大きく変えた「Cortex-M」について解説します。
2020年からLinuxやAndroid実装が増える
そんな訳で、組み込みプラットフォームとして広く利用されてきたWindowsであるが、2020年頃から最近ちょっと様子が変わってきた。というのはLinuxあるいはAndroidを利用した実装例が非常に増えてきているのだ(写真2)。最近だとスマートフォンのUIに慣れてきているユーザーが非常に増え、またAndroidに対応したアプリケーション開発者の数も非常に多い。複雑なシステムならともかく、簡単なデジタルサイネージの類とかKIOSK等ならばAndroidベースの方がむしろ作りやすい。もう少し複雑なものはLinuxで、という感じでもうかつてのWindows一本鎗という風潮は国内外を問わずあまり感じられなくなっている。この傾向もやはり、今後も変わらないだろうと思う。
細かい変化の波が押し寄せる組み込み業界
昨今のトレンドで言えば、組み込みの現場(つまり開発と運用の両方)にAIが入ってきた(開発は大規模言語モデル[LLM]ベースの開発支援、運用の方はデータの処理にさまざまな軽量Networkの活用)とか、その開発にCI/CDが本格的に導入されるようになってきたとか、MCUベースのシステムの開発現場ではもうBaremetalでの開発がなくなり、RTOSを利用するようになった(というか、RTOSを利用せざるをえなくなった)とか、細かい変化の波がひっきりなしに押し寄せている。
あるいは、昔は端的に言えばCPUの細かい命令をちゃんと覚えていてアセンブラでプログラムを書けるといった素養が組み込み業界ではしばしば貴ばれていたが、今はCloudとの接続まで含めたNetwork周りの知識とか、Firmware Update周り、さまざまな周辺回路との接続(USBのクラスドライバのたたき方とか)など、要求されるものがだいぶ変わってきた様に思われる。もちろん、今でもICE使って動作確認したりする現場ではアセンブラというか機械語必須ではあるのだが、そうしたニーズは以前よりだいぶ減ってきたように思われる。ただトータルで言えばむしろ必要とされる知識は以前より増えているという気がしてならない。なるほど、組み込み開発のエンジニアを志願する人がさらに減っているというのも納得できる話ではある。さて、いつまで日本の企業はこうしたエンジニアを擁して組み込みシステムの開発を続けられるのだろう?
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