TSMCはもはや世界の「中央銀行」 競争力の源泉は150台超のEUV露光装置:湯之上隆のナノフォーカス(85)(4/5 ページ)
2025年第3四半期、TSMCは過去最高の売上高と営業利益を記録した。なぜ、TSMCはここまで強いのか。テクノロジーノード別/アプリケーション別の同社の売上高と、極端紫外線(EUV)露光装置の保有台数を基に、読み解いてみたい。
TSMCの主要ビジネスの変ぼう
図9に、TSMCの四半期におけるプラットフォーム別売上高(比率)を示す。まず図9-1の売上比率を見ると、2021年頃まではTSMCの最大の売上分野はスマホ向け半導体であったことが分かる。
しかし、状況は2022年11月30日に米OpenAIがChatGPTを公開したことを契機に大きく変化した。生成AIは瞬く間に世界中に普及し、その動作基盤となるAIサーバにはNVIDIAのGPUなどのAI向け半導体が不可欠であった。その結果として、NVIDIAのGPUは、Google、Microsoft、Amazonなどのハイパースケーラー各社による争奪戦となった。
そして、NVIDIAをはじめとするAI半導体の製造のほとんどがTSMCに集中した。その影響はTSMCの売上構成に直ちに表れ、2023年以降、HPC分野がスマホ向けを上回る基幹ビジネスへと成長し、2025年Q3には、HPCが57%、スマホ向けが30%と、両者の差は決定的なものとなった。
この変化は、図9-2の「売上金額」で見るとさらに鮮明である。スマホ向け売上は2022年以降、変動しながらも100億米ドルを超えることができていない。一方、AI半導体を含むHPC向けは急激に拡大し、2025年Q3には約189億米ドルとなり、200億米ドルに肉薄している。
要するに、2020年から2025年の間に、TSMCの主力ビジネスは、スマホからAI半導体へと劇的な変ぼうを遂げたのである。そして、この変化は、TSMCのトップ10カスタマーの変化を確認すると、さらに明確になる。
TSMCのトップ10カスタマーの変化
図10に、2020年と2025年におけるTSMCの主要顧客トップ10について、推定売上比率、製品カテゴリー、主な製造ノードを示す。
まず2020年を見ると、上位はスマホ関連企業が独占していた。1位はApple(約25%)、2位はHuawei傘下のHiSilicon(約14%)、3位はQualcomm(約10%)、4位はMediaTek(約8%)であり、上位4社の合計は約57%に達する(いずれも推定値)。この時点のTSMCは、明確にスマホ経済圏の中心を担うファウンドリーであったと言える(なお、APはApplication Processorの略)
ところが、2025年にはその構造が劇的に変化している。スマホ関連メーカーは総じて順位を下げ、Appleは第2位(20〜23%)、Qualcommは第4位(約7%)、MediaTekは第8位(約3%)へ後退した。
その一方で、AI半導体関連企業がトップ10のうち7社を占める構成へと転じた。1位はAppleを抜いたと推定されるNVIDIA(22〜25%)、3位はNVIDIAを追撃しようとしているAMD(約10%)、さらには独自のAI半導体をASICとして製造委託しているハイパースケーラーの5位Google(約5%)、6位Microsoft(約4%)、7位Amazon(約3%)、さらにはハイパースケーラー向けにASICを設計している9位Broadcom(約3%)、10位Marvell(約2%)となった。これらAI半導体関連の7社の合計は最大で約52%に達し、かつTSMCの先端ノードの5nmと3nmを集中的に消費していると言える。
ここからも、TSMCの売上構造が「スマホ依存」から「AI半導体中心」へと大きく変ぼうしたことが分かる。
そして、今後は、スマホ向け半導体が再び大幅に拡大する可能性は低いだろう。一方、AI半導体の需要はこの先も増大すると推測される。従って、TSMCの成長の中心は、今後も先端ノードで製造されるAI半導体に置かれ続けることになる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

