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インタビュー

「技術絶やさないで」 中国勢が躍進するSiC市場、日本の勝ち筋を探る名古屋工業大学 電気・機械工学科 教授 加藤正史氏(2/3 ページ)

高耐熱/高耐圧用途向けでシリコン(Si)に代わる次世代パワー半導体材料として、炭化ケイ素(SiC)への注目度がますます高まっている。2025年9月に開催されたSiCに関する国際学会「International Conference on Silicon Carbide and Related Materials(ICSCRM) 2025」での動向などを踏まえて、SiC開発の現状や日本を含めた世界のプレイヤーの勢力図について、名古屋工業大学 電気・機械工学科 教授の加藤正史氏に聞いた。

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中国は上流から下流までの連携が弱点

――ウエハーに限らず、デバイスなどを含めたSiCエコシステム全体でも中国が主導権を握っていくのでしょうか。

加藤氏 必ずしもそうではないと考えている。先発国にはWolfspeedやInfineon Technologiesのように幅広くSiC事業を手掛ける企業があるのに対し、中国では結晶成長炉だけを扱う企業やSiCウエハーだけを扱う企業というように各企業が担う領域が細分化していて、上流から下流までの連携が弱い。それゆえに中国のウエハーメーカーはサプライチェーンの下流で求められるものを把握できず、今後どのような技術開発をすべきか分かっていないようだ。中国のSiCウエハーメーカーであるSICCが東芝デバイス&ストレージのようなデバイスメーカーと関係を深めようとしていたのはそうした背景からだろう。

加藤氏 中国製ウエハーはウエハー単体で見ると高品質だが、デバイスメーカーのニーズが見えていないことから、それを使ったデバイスがどれだけ高品質になるかは未知数だ。結晶面方位が少しずれているように感じるものも多く、これはデバイスの構造によっては歩留まりが上がらない原因にもなる。

 中国にはいろいろなウエハーメーカーがあるが、どこも似た流れで品質が向上していることも特徴だ。結晶成長装置メーカーが結晶成長の「標準レシピ」を提供することがあるので、ウエハーメーカーが共通して結晶成長装置メーカーのレシピを使っている可能性がある。中国国内での差別化が難しく、ここから淘汰が始まるのではないか。

日本の勝ち筋はSiから蓄積した総合力

――日本の企業や研究機関の動向はいかがですか。

加藤氏 研究や技術に関しては、日本はSiCの全ての領域でハイレベルだ。ICSCRM 2025でも、招待ポスターは4件とも日本のチームだった。それだけに、ビジネスの面では存在感が薄れてしまっているのが残念なところだ。

 日本のSiC業界では、世代交代も課題になっている。ハードウェアに関わる業界はどこもそうだと思うが、若手の人材が不足している状況だ。大学の中でも、今さらSiCの研究に着手するという雰囲気がない。大学の研究者はどうしても目新しいインパクトを要求されるので、新材料に取り組む人も多い。既に「少しずつ性能を向上させる」という段階にあるSiCの研究は、産業を下支えするという意味でとても重要だが、研究者にとっては魅力的ではないのかもしれない。

 それでも、まだまだ日本が活躍できる道はある。SiCにおける日本の勝ち筋は「総合力」だと思う。現時点では、日本のデバイスメーカーはSiで蓄積してきたノウハウをSiCでもしっかり落とし込めている。「ウエハーは中国頼み」となると政治的リスクも大きいので、ウエハーからデバイスまで国内で製造して自動車や鉄道車両に搭載してきたSiでのエコシステムをSiCでもきちんと残していってほしい。

 今後の技術的な課題としては、大口径化が進む中で、欠陥だけでなくウエハーの反りなどの形状もきちんと制御することが挙げられる。SiCでは今から劇的なイノベーションを起こすことはなかなか難しいと思うが、地道に少しずつ進めていくしかない。デバイス側で応用範囲を広げることも重要だ。高耐圧のアプリケーションやデータセンター電源、直流送電などに日本の技術が生かせるのではないか。

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