自由市場から国家主導へ 米国政府の「アメとムチ」で変貌する半導体業界:AI新技術も「事実上の国有化」(3/3 ページ)
米国経済は歴史的に重要な転換点を迎えている。世界を代表するテクノロジー企業が米国への巨額の投資を約束しているが、これは自由市場原理の勝利ではない。経済的/規制的な強制力に基づく産業政策の結果だ。つまり、米国政府は安全保障というレトリックを用いて企業の意思決定に影響を及ぼしたといえる。
TSMC/Samsungの工場建設はリソースの奪い合いに
膨大な財政的負担にもかかわらず急速な資源の再配分が行われていることは、特にエネルギー市場や労働市場における物理的制約や脆弱性を考えると、このアプローチの長期的な経済的持続可能性に疑問が生じる。
電力に関して差し迫った負担があることは明らかだ。データセンターの電力需要は2030年までに165%増加する可能性がある。これによって米国の電力網が逼迫する恐れがあり、迅速に供給を強化できなければ停電リスクは100倍に増加するともいわれる。
公益事業は現在「設備投資のスーパーサイクル」に突入していて、2030年までに1.4兆米ドルの支出が計画されている。これについては納税者が大手テック企業のAIインフラを補助することになるのではないかという公平性への懸念も生じている。
同時に、TSMCとSamsungの新工場を含む大規模プロジェクトの同時進行は深刻な労働力不足にもつながる。専門の機械/電気/配管エンジニアの需要は極めて高まっている。
さらに、同時に着工すれば労働力を奪い合うことにもなるので、必然的にコスト超過とスケジュール遅延の可能性も高まる。完成は2028年から2030年以降に遅れる可能性がある。
貿易政策を用いて投資を強制し、行政の権限を乱用して規制を行おうとする国家主導の転換は、産業活性化への大きな賭けであるといえる。米国は、国家と市場を同期させることで、AI経済の支配権を確保しようとしているのだ。
【翻訳:田中留美/滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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