極限環境に挑む「SiCのLSI」 目指すは原発事故処理や金星探査:広島大学 半導体産業技術研究所 教授 黒木伸一郎氏(3/3 ページ)
次世代パワー半導体材料として活用が進む炭化ケイ素(SiC)だが、その応用先はパワー半導体のみにとどまらない。高温動作や耐放射線性といったシリコン(Si)を大きく上回る特性を生かし、極限環境で動作するLSIへの応用に向けた研究が進んでいる。SiC LSIの利点や実用化に向けた研究動向について、広島大学 半導体産業技術研究所 教授 黒木伸一郎氏に聞いた。
「2〜3年が勝負」 社会実装に向けた課題とは
――SiC LSIの社会実装に向けては、どんな課題がありますか。
黒木氏 技術的には、フェニテックとの共同研究で行っているサイクルを繰り返していけば実用的なものが出来上がるだろう。今後2〜3年ほどが勝負だと考えている。Siではかなり古いとされているプロセスノードでもSiCでは十分に新しい応用先があるが、問題はそれをどう事業化するかだ。
SiC LSIの用途は前述の通り、原発の廃炉対応や金星探査などニッチなものが多いので、個別の用途でそれぞれプロセスを立ち上げることは難しい。そのため、それらを取りまとめて、高温/高放射線などの極限環境応用に向けたSiC LSIのプラットフォームを立ち上げ、各用途に共通して使える基盤技術を開発することを考えている。EVを除くと大量生産されるものではないので、応用側ときちんと組み合わせることは重要だ。
一流の研究が事業化につながらない…… 「継続的な支援を」
――Si/SiCどちらの研究にも携わってきた立場から、日本のSiC業界や半導体業界についてどう見ていますか。
黒木氏 SiCは世界的に本格的な量産ベースの競争が始まり、国際的な競争環境は激しくなっている。強調すべきはEV需要の低迷や特定の企業の業績といった一部分ではなく、「本格的な競争が始まった」ということだろう。
SiCに限らずあらゆる分野で、日本の大学や研究機関が時間をかけて立ち上げた技術を、海外企業が事業化に成功するという例が多い。基礎研究の次の段階の投資が不十分だと思う。
日本のSiCの研究者/開発者はこの10年以上、とても頑張ってきた。2019年に内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」第1期が終わって以降、そこまでの予算はついていない。今後も国が支援を継続して基礎研究を固め、事業につなげていくべきだと思う。日本のSiC研究開発は一流で、世界的な市場も形成されている。あとは経営や戦略、投資の判断、そしてスピード感だろう。
日本のSi業界にはこの30年で、「アイデアは斬新だが、時代がついてきていない」という技術がいくつあっただろうか。怒られることを覚悟で言うと、もともとNECの特許だった化学機械研磨(CMP)や、富士通研究所が素晴らしい技術を持っていた抵抗変化型メモリ(ReRAM)、東北大学や広島大が研究していたTSV(Through Silicon Via)など、ラディカルなイノベーションが多くあった。しかし、その後は海外企業が事業として成功した。こうしたイノベーションをきちんと経済的価値につなげる流れが必要だ。
――今後の研究における目標を教えてください。
黒木氏 前述のような「技術をその先につなげる」ことを人任せにするつもりはなく、2023年3月には「せとうち半導体コンソーシアム」を立ち上げた。アカデミアと企業、企業と企業の間でオープンイノベーションを促進し、技術と技術、技術と応用先、人と人を「つなぐ」ことを目的としている。現在はデバイスメーカーや装置メーカー、材料メーカーなど39団体で活動を進めていて、定期的に集って議論することでとても面白いことになっている。これを10年続けたら、すごいことになると思う。
SiC LSIについては、出口側の研究者からもたくさんの要望をもらっているので、一つずつ一緒に考えて形にしていきたい。
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