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社会人大学院生にしか見えない「ドブ板経験」と「学問」のあいだリタイア直前エンジニアの社会人大学漂流記(5-1)(2/3 ページ)

今回から実際の講義の話に入ります。博士論文には直結しない講義に出ることは、タイパ/コスパがいいかと言われれば「No」です。全くペイしません。ですが、社会人として「ドブ板を踏んできた経験」があるからこそ味わえる「学問の世界」があるのです。そしてそれは、社会人大学院生にしか見えない景色ではないかと、私は思ったのでした。

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1.5時間の講義の前に「5時間予習」

 そもそも、私は交通工学を全く理解していませんし、使われる用語も知りません。その上、講義が英語で行われるのです。私は「講義の内容を理解するのは無理」と最初から腹をくくりました。

 そして、「講義が始まる前に、講義の履修を終えてしまう」という、無茶な作戦を取ることにしました。

 さて、以下のコピペは、講義の前に田中先生が配布される資料に、私が「予習」して書き込んだものです。

 私、1コマ1.5時間の講義に、5時間くらいの予習をしてきました ―― インドの大学が公開しているYouTubeの講義を使って。


(例えば、上記の内容であれば、https://youtu.be/3XaTwQIugJ4?list=PLE88643285BC70E0F&t=2360 あたりになります)

 私、この“Indian Institute of Technology(インド工科大学)”のYouTubeの講義は使い倒しました。分からないところは何度でも見返せるし、英語字幕も出るし、インド英語の発音は日本語英語に近く、分かりやすいのです(少なくとも、私には、英米英語よりは、インド英語の方がずっと分かりやすかった)。

先人の英知に感銘 「紙と鉛筆」だけで信号機表示時間の最適値を導く

 毎週、1講義あたり5時間くらいの予習をして、大学に往復3時間かけて、1.5時間の講義を受けて、その後に出社または帰宅するので、仕事は当然夜中にずれ込み、睡眠不足の日々でしたが、それでも私は楽しかった。


[クリックで拡大]

 専門的な話になりますが、私は「飽和交通流率」と「信号制御」の話が、ぶっちぎりで面白かったです。講義では、実際に信号制御の設計の計算問題もさせられたのですが、これは私のこれまでの「数値が分からなければ、MAS(マルチエージェントシミュレーション)に突っ込んで、当たりをつければいい」という考え方を、一瞬で粉砕しました。

 ―― 超絶複雑な交通量に対して、紙と鉛筆を使った簡易な計算だけで?、信号機の(色の)表示時間間隔の最適値を導き出せる

という事実に、私は打ちのめされました。

 考えてみれば、ほんの数十年前にはPCどころか電卓もなかったのですが、世界中で自動車が走り、信号機が交通の流れを捌いていたのです。私は、先人達の英知に感銘し、そして自分の浅学と傲慢を、心の底から「恥ずかしい」と思ったのです。

 社会人大学院生が、普通の学生と決定的に違う点があるとすれば――それは、

 「現場でドブ板を踏んできた『2次元的な経験』を、体系的な学問という『3次元の視点』で、もう一度塗りつぶされる」という、暴力的な破壊と再編の体験

 にあるのではないかと思うのです。


[クリックで拡大]

 PC上のMASで、数え切れないほど(億回から兆回の単位?)使ってきたダイクストラ法(最短経路アルゴリズム)を、紙の表と鉛筆だけで計算したのも、新鮮な体験でした。

 これも、このアルゴリズムを使い倒してきた身だからこそ分かる、楽しさだと思います。

 フィールド実習もやりました。年末の宿題として、交通流の実測と計算をやっていました。

 課題に従い、時刻とカウンターを同時に記録できるアプリをタブレットに入れ、自宅近くのコンビニの駐車場から計測を開始しました(このアプリケーションの情報は、同期の留学生たちにも共有しました)

 コンビニで昼食を購入して、車の中にタブレットを持ち込んで、パンをかじりながら、車が通るたびに、ひたすらタブレットをタップし続けました。

 その結果がこちらのレポートです。



 私は『授業に来ないとか、うまく単位だけ取ろうとするとか、一体何を考えているんだ? こんな楽しい授業の魅力に誰も気が付かないとは、どういうことだ?』などと言うつもりはありません。

 「タイパ(タイムパフォーマンス)」が「授業の楽しさ」を上回るのであれば、それは合理的な行動です。社会人である私だからこそ見える「授業の楽しさ」を、現役の学生さんに強要するのは「暴力」です。

 それでも、「安くない授業料を回収しないのは、もったいないなぁ」とは思います ―― いかにも、コスト計算でズブズブの社会人的な発想ですが。

 予習しても分からず、講義でも分からないところは、田中先生に食い下がって(英単語だけで)質問したりして、先生には随分ご迷惑もおかけしたように思いますが、多分、他の留学生たちには「このレベルでも大丈夫なんだ」という安心感は与えられたのではないかと(前向きに)思っています。

 変な英語をしゃべる日本人のおっさん(実際、先生より私の方が年上)が、稚拙な英語で食い下がる姿は、それなりに面白かった(滑稽だった?)と思いますし、彼らの質問のしきい値も、多少は下げたのではないかと(完全に一方的に)思っています。

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