ADIがEmpower買収 データセンター市場に照準:電源供給の安定化技術を取得
Analog Devices(ADI)が、統合化定電圧回路(IVR:Integrated Voltage Regulator)を専業とするスタートアップEmpower Semiconductorを買収した。どのような狙いがあったのか。
AIの勢いは、パワー半導体の目前まで到達している。これは、Bloombergが報じているように、Analog Devices(以下、ADI)が、統合化定電圧回路(IVR:Integrated Voltage Regulator)を専業とするスタートアップEmpower Semiconductor(以下、Empower)を買収したことからも明らかだ。同社のIVRは、基板上のプロセッサの横に配置されるのではなく、プロセッサのパッケージ内部に統合されるものだ。
報道によると、ADIは現在、最終的な協議を進めているところで、非公開企業であるパワーマネジメントIC(PMIC)のスタートアップEmpowerを15億米ドルで買収するとみられる。両社は当初、今回の報道に関するコメントを拒否していた。EmpowerのIVRは、AIプロセッサに必要な速度や精度、シグナルインテグリティを備え、オンデマンドでスケーラブルな電源供給を実現するという。
これは、単一のICに複数の電源を配置することでDC-DCコンバーターの導入が容易になるという、デジタル構成可能なハードウェアプラットフォームだ。設計者は、ディスクリート部品を使用せずにこの半導体チップをそのままプリント基板上に配置することができる。また、ダイが非常に小さくてプロセッサ基板の底面に配置可能なため、AIアクセラレーターパッケージに統合することも可能だ。
Empowerは2014年に、アナログ設計のベテラン3人によって創設された企業だ。同社は、自社の新型パワーチップIVRが、データセンター分野の課題に容易に対応できると考えた。このIVRは、ディスクリート部品を排除または統合することにより、電力密度とエネルギー効率の均衡という長年にわたる問題を緩和するという。
一般的なPMICソリューションでは、複数のディスクリート部品を搭載すると、速度が低下する他、高コスト化や大型化につながる。これが現在問題となっているのは、データセンターが既に消費電力量の限界に達しつつあるためだ。Empowerは「当社のパワーデバイスは、電力損失の大幅な低減と過渡応答の向上を実現しながら、ディスクリートベースの大型PMICを置き換えることが可能だ」と主張する。
EmpowerのIVRは、全てのディスクリート部品を排除し、システム内のどこにでも配置可能な極小のフォームファクターで、コンフィギュラブル/プログラム可能な半導体チップを実現する。IVRはこれを、磁性部品や積層セラミックコンデンサー(MLCC)を排除することによって達成している。その結果、パッケージ全体を、一般的な電力供給システムで使われているインダクターの3分の1〜5分の1に小型化することが可能だ。
データセンターの「ボトルネック」狙う企業が相次ぎ参入
Empowerは、このようなAIプロセッサに向けた電源制御ソリューションを実現しているが、現代のAI計算インフラに向けた垂直型設計やPower-on-Package設計を追求しているメーカーは、同社だけではない。Infineon Technologies(以下、Infineon)やMonolithic Power Systems(MPS)、Vicorなどのパワー半導体サプライヤーも、ハイパースケール環境におけるデザインウィンを獲得して参入しつつある。
Infineonは最近、対話型アプリケーションに必要な2ミリ秒未満のトークンレイテンシを提供すべく、同社のデュアルフェーズ電源モジュール「OptiMOS TDM2254xDシリーズ」に、d-Matrixの推論アクセラレーター「Corsair」を搭載した。またMPSとVicorも、AIアクセラレーター向けにコスト効率の高い電源管理ソリューションを提供する上で、大きな進展を遂げている。
ADIは、Linear TechnologyやMaxim Integratedの買収を通じて従来の電源レールやモジュール関連の資産を蓄積してきたものの、GPUやその他のAIアクセラレーター向けの電源ソリューションにおいては不十分であった。そこで、電力供給アーキテクチャを一から構築する代わりに、データセンターのエネルギー消費量と総所有コスト(TCO)の削減実績を持つソリューションを買収することを決めたのだ。
ADIによるEmpowerの買収というニュースは、パワー半導体が、高度なパッケージング技術や広帯域メモリ(HBM)技術と同様に、今やAIアクセラレーターの性能に不可欠な要素になっていることを再認識させるものとなった。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
AI/HPCの性能を左右する電源供給網の安定化(前編)
「IEDM 2025」におけるTSMCの講演内容を紹介するシリーズ。今回は5番目の項目「(5)Power delivery efficiency(電源供給の効率)」を前後編の2回に分けて解説する。
AI/HPCの性能を左右する電源供給網の安定化(後編)
前編に続き、電源供給網を安定化する技術について解説する。データセンターの電力消費予測と、次世代の電源回路アーキテクチャ、電源供給の効率向上(損失低減)などを取り上げる。
Cerebrasが上場 NVIDIA対抗馬の「試金石」となるか
AIチップを手掛ける米Cerebras Systemsが、ナスダック市場への新規株式公開(IPO)を果たし、約55億米ドルを調達した。NVIDIAの対抗馬となる技術を提供する同社への期待値の高さが証明される結果となった。
加賀電子が新光商事にTOB、完全子会社化へ
加賀電子は2026年5月15日、新光商事を完全子会社とすることを目的として、新光商事の普通株式全てを公開買い付け(TOB)により取得すると発表した。買付総額は45億9742万6420円になる見込みだ。
6Gで導入期待 通信とセンシングの融合技術「ISAC」デモをADIが実施
アナログ・デバイセズ(ADI)は「マイクロウェーブ展 2025」に出展し、同社製品によるRFソリューションを紹介。ISAC(無線とセンシングの融合)のデモンストレーションや開発中のBLEモジュールの展示などを行った。
台湾ASEがADIのマレーシア工場を買収 後工程強化へ
台湾ASE Technologyとアナログ・デバイセズは2025年10月21日(マレーシアおよび米国時間)、マレーシアのペナン州における戦略的な共同の取組みについて、拘束力のある覚書を交わしたことを発表。ASEがADIのマレーシア子会社およびペナン工場を買収することを明らかにした。
自動車の末端までマイコンいらずでイーサネット接続、ADIの独自技術
アナログ・デバイセズ(ADI)は「人とくるまのテクノロジー展 2024 YOKOHAMA」に出展し、同社の独自技術「E2B」(Ethernet to the Edge Bus)を紹介した。自動車の末端部分までをイーサネットで接続し、通信遅延を抑制できるという。
![Empowerは、IVRをAIプロセッサと同一パッケージに集積すべく、Marvell Technologyと密に連携してきた[クリックで拡大] 出所:Marvell Technology](https://image.itmedia.co.jp/ee/articles/2605/25/mm260525_adi01.jpg)
![IVRはプロセッサの電圧をリアルタイムで調整できるので、大きな省エネ効果を見込めるという[クリックで拡大] 出所:Empower](https://image.itmedia.co.jp/ee/articles/2605/25/mm260525_adi02.jpg)