三菱電機、SiC MOSFETのAC特性変動「世界最小」級と実証:「望んだ性能が続くか」が重要な競争軸に(2/3 ページ)
SiC MOSFETの採用拡大が本格化する中、実際の使用環境に近いAC動作を繰り返すことでゲートしきい値電圧(Vth)が変動し、設計時に想定した損失や熱特性が変化する課題が注目されている。こうした特性変動を評価するDGS試験において、三菱電機は同社SiC MOSFETの特性変動量が「世界最小クラス」(同社)であることを実証したという。
DGS試験の課題、メーカー間の正確な比較を可能に
今回三菱電機が評価したDGS試験は、SiC MOSFETのゲートを繰り返しAC駆動し、その過程で発生するゲートしきい値電圧(Vth)の変化を調べるものだ。ACストレス印加とVth測定を繰り返し行い、使用中の特性変動を評価する。Vthが変化すると熱設計や損失設計の前提条件も変わるため、この試験は長期信頼性を評価する指標として注目されているのだという。近年は車載用途を中心に重要性が高まっていて、日本ではJEITAが標準規格を策定するなど、評価手法の標準化も進んでいる。
三菱電機によるとこの試験には主に2つの課題があるという。
1つはゲート波形の制御だ。DGS試験では規格(JEDEC JEP195)で定められた条件の下、スイッチング時のオーバーシュートおよびアンダーシュートを0.5V以下に抑えながら、スイッチング速度を0.1〜0.3V/ナノ秒(ns)以上に維持しなければならない。オーバーシュートを小さくしようとするとスイッチング速度は低下しやすく、逆に高速化するとオーバーシュートが大きくなる傾向があるため、両立は容易ではないという。
もう1つの課題が自己発熱の影響だ。ゲートを繰り返し充放電すると電流が流れ、その損失によってMOSFET自身が発熱する。特性変動量には温度依存性があるため、チップサイズやゲート電荷量が異なるデバイス同士を比較する場合、この自己発熱の影響を考慮しなければ正確な評価はできない。「メーカー間でDGS試験結果を比較することは容易ではない」ということだ。そこで三菱電機は、DGS試験中のMOSFETの寄生ダイオード特性を利用して実際のチップ温度を取得し、その温度を用いて結果を補正する手法を考案。これによって自己発熱の影響を除いた正確な比較を可能にしたとしている。
特性変動量「世界最小クラス」を実現、その詳細
実際に三菱電機が行った評価試験は、同社プレーナー型およびトレンチ型SiC MOSFETに加え、日本、米国、欧州メーカーの市販品4種類(プレーナーとトレンチ型がそれぞれ2種)を含む計6種類で実施した。各デバイスについてゲートしきい値電圧変動量の温度依存性を取得した。
下図の左は、環境温度だけで整理した場合で、各デバイスに温度依存性が見られた。なお、ここで既に三菱電機の製品、特にプレーナー型は、全温度領域で変動量が最も小さくなっている。ただ、実際にはチップサイズやゲート容量の違いなどによって自己発熱量が異なるため、環境温度とチップ温度にずれが生じ、正確な比較とはならない。
そこで、上述の寄生ダイオード特性から求めたチップ温度を用いた補正を行うことで、自己発熱の影響を除いた比較を実施した。その結果が上図右だ。
25℃で2×1011サイクル動作後のVth変動量を比較したところ、同社プレーナー型SiC MOSFETは他社品に比べて約1桁小さい値を示していて、同社は「世界最小クラス」のACゲートストレスに対する高い信頼性を実証できたとしている(下図)。トレンチ型についても他社製品より小さい変動量を示している。
三菱電機の研究開発本部 先端技術総合研究所 先進パワーデバイス技術部 素子実証グループマネジャーの菅原勝俊氏はこの結果を実現した要因について「詳細は開示できないが、ゲート形成工程に独自のノウハウがある。それが特性変動の抑制につながっている」と語った。
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![25℃で2×10<sup>11</sup>サイクル動作後のVth変動量を比較したところ[クリックで拡大] 出所:三菱電機](https://image.itmedia.co.jp/ee/articles/2606/10/jn20260610m007.jpg)