時速350kmのレースで「水平」維持、ソニー スタビライザーLSI:1.5フレームの低遅延(2/3 ページ)
イメージセンサー大手ソニーセミコンダクタソリューションズが、約1.5フレームの低遅延で映像のブレや傾きを補正するスタビライザーLSIの市場開拓を進めている。MotoGPなどで採用が広がる同製品の詳細を担当者に聞いた。
時速350kmで走るMotoGP、「水平出し」が採用の決め手に
代表的な採用事例がMotoGPだ。SSSは、MotoGPの映像制作を手掛けるスペインのDorna Sportsとカメラシステムを共同開発してきた。バイクには前方や後方、ライダーなどを撮影する複数のカメラが搭載されているという。
最高時速350kmに達する同レースでは、車体から発生する振動によるジェロ現象に加え、縁石を乗り越える際の振動など、車載カメラにとって厳しい撮影条件がそろう。「ガタガタという振動を取り切れず、そのまま放送映像に出てしまうと、視聴者としては見づらいし、酔ってしまうこともある」(同氏)。CXD5254GGでは、こうした振動をリアルタイムで補正する。
もう1つ大きな課題になるのが「水平出し」だ。バイクに固定したカメラは、コーナリング時に車体と一緒に傾くため、そのままでは遠景の水平線も大きく傾く。そこで、車体が傾いていても遠景を水平に保つ必要がある。しかし、高速でコーナーに入ると車体の傾きも短時間で大きく変わるため、従来のカメラでは補正が追い付かず、水平線が斜めのままになったり、S字カーブで画面が左右に大きく動いたりすることがあったという。高速処理が可能なCXD5254GGを使うことでこうした状況でも水平出しが可能になった。この点をDorna Sportsからも高く評価され採用されることになったという。
スタビライズ機能を有効にした映像と無効にした映像の比較は下図の通りだ。
水平出しをせず、バイクと一緒に映像を傾けると、ライダーに近い感覚の映像になる。一方、水平出しを使えば遠景は水平に保たれ、画面内でバイクだけが大きく傾いて見える。「前を走っているバイクがどれだけ傾いているかが一目瞭然になる。視聴者としても見やすいし、迫力も出る」(同氏)。実際の中継では、スタビライズを有効にした映像と、あえて傾きを残した映像が、演出に応じて使い分けているという。
なお、CXD5254GGが量産品として出来上がったのは2018年ごろで、SSSは当初、ソニーグループ内のプロフェッショナルカメラを手掛ける部門に技術を提供していたのだという。カメラモジュールのハードウェアを同部門が開発し、CXD5254GG周辺のアルゴリズムやファームウェアなどをSSSが担当していた。その後、顧客からの引き合いが増えたことから、2024年8月、SSSとしてカメラモジュールの外販も始めたという。
山道を走るカメラマン、トレイルランニングでも採用
カメラモジュールの外販開始後、モータースポーツ以外にも用途が広がった。スペインのdBi RF Servicesは、トレイルランニング競技の撮影にSSSのカメラモジュールを採用。実際の中継に使われているという。
撮影では、自撮り棒のような機材の先にカメラヘッドを取り付け、カメラマンが選手と一緒に山道を走る。信号処理部や無線機器、バッテリーなどもカメラマンが持ち、映像は無線で中継局に送る形だ。起伏の激しい山道を走れば、カメラには大きな上下動が加わるが、CXD5254GGによってこれを補正することで、カメラマン自身が走りながらでも遠景を安定させた映像を撮影できるという。
カメラヘッドが小型であることも、撮影の自由度を高める。例えば、スポーツの審判にカメラを取り付け、競技を審判の視点から撮影するといった用途などにも対応できる。実際に、SSSには自転車やフィールドスポーツなどから複数の引き合いがあり、一部では既に量産品を出荷しているという。
ポストプロダクションなしでドローンから生中継
ドローンを使った撮影にも採用が広がっている。ドイツのAirtime Unlimitedは、SSSのカメラモジュールをFPVドローンに搭載。スキージャンプ台などで撮影を行っている。ドローンは風の影響を受けるほか、機体自体にも細かな振動がある。収録用途であれば、撮影した映像を機体内のSDカードなどに保存し、後からポストプロダクションで補正することもできるが、生中継では撮影時点で映像を補正する必要がある。
CXD5254GGを搭載したカメラモジュールでは、飛行中に水平出しや振動除去を行った映像を出力。スキージャンプ台の上空を移動しながら撮影しつつ、遠景の水平も保った安定した映像をリアルタイムで提供可能としている。
撮影後の工程を減らせることもメリットだ。担当者は「低遅延なのでほぼリアルタイムで生中継でき、さらに、後からポストプロダクションで補正しなくても、すぐに使える映像として編集できる点はメリットだ」と強調する。
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![トレイルランニング競技の事例。左は撮影の様子で右が中継映像[クリックで拡大]](https://image.itmedia.co.jp/ee/articles/2609/11/jn20260911sss5.jpg)