検索
連載

半導体誘致で対照的な日韓、共通する「官」「民」のズレ大山聡の業界スコープ(104)(2/3 ページ)

半導体工場の誘致を目指す韓国・光州のフォーラムに参加した。しかし、誘致対象のSamsung ElectronicsとSK Hynixの姿はなく、政府の熱意と企業の姿勢には隔たりがうかがえた。半導体産業を巡る状況は対照的な日韓だが、「官」と「民」の意思のズレは共通する。両国の事例から、企業の実態と意思を踏まえた半導体戦略の必要性を考える。

Share
Tweet
LINE
Hatena

「官」と「民」の意思にズレ

 光州に対して前のめりな韓国政府は、「南西部に800兆ウォン投資」「Samsung、SK hynixが光州に2拠点を新設」などとすでに発表している。だが、これはあくまでも政府側の構想であり、大手2社がこれに同意しているわけではない。今回のフォーラムに参加した印象を率直に申し上げれば、大手2社の本プロジェクトに対する姿勢は「冷ややか」である。

 例えば今回の講演者のコメントの中では「未来への期待」が何度も強調されていたが、「誘致対象である2社へのサポート」については一切コメントがなかった。だからと言って政府が2社に対して「サポートしない」と決め付けるわけではないが、「この2社にとって、これだけのメリットがある」というメッセージは必要だったのではないだろうか。フォーラムに不参加の2社に対して、プロジェクト推進者たちは今後どうやってメッセージを送っていくのか。筆者の見解が正しければ、「冷ややかな2社を熱くするための戦略」こそが、本プロジェクトを前進させるために必要だろう。

日本と韓国の「対照的な面」と「共通する面」

 冒頭に述べたように、筆者は「日本における政府主導の半導体誘致の事例」を紹介する目的で本フォーラムへの参加を要請され、熊本のTSMC、千歳(北海道)のRapidusの事例について説明した。プレゼンに先立って筆者は、「日本でも半導体は重要産業と位置付けられているが、日系企業の活力だけでは不十分なので、政府が多額の補助金を投入し、外資企業(TSMC)を誘致したり、政府主導の企業(Rapidus)を設立したりする必要がある。しかし韓国には自力で積極的な事業展開をしている大手企業が2つ存在する。両国の状況は同じではない」「韓国大手2社が今何を求めているのか、韓国政府は2社に対してどのような支援を行うことが有効なのか、これを先に確認することをオススメしたい」と断ってから誘致の事例説明に入った。

 「政府が半導体事業構築に積極的なのに、民間が消極的な日本」と「民間が積極的に半導体事業を展開しているのに、政府が独自の戦略を打ち出す韓国」という対照的な状況が浮かび上がってくる。しかし「官」と「民」の間に意志のズレがある点だけは両国に共通している。経済活動は民間企業が中心となって行うものだが、半導体産業はどの国においても国家戦略や経済安全保障に直接影響するため、「官」と「民」がそれぞれの立場から関わることになる。そして多くの場合、両者の意思にはズレが生じやすい。

 筆者は半導体業界人の1人として、韓国の活力がうらやましくもある。その一方で、「せっかく活力があるのだから、政府は大手2社の意思をくんでその活力を利用すれば良いのに」と歯がゆくもある。今回のフォーラムを見ていると、プロジェクト推進者たちは「2社の意思をくむことなく、活力だけを利用しようとしているのではないか」とすら思えてくるのだ。


TSMC熊本工場(JASM 熊本第一工場)の外観

 ちなみに日本では2021年に半導体戦略が策定され、「2011年から2020年まで国内半導体製造は5兆円前後にとどまってきたが、2030年には15兆円の製造を目指す」と目標を定めた。最近ではキオクシアの躍進のおかげで上昇気流に乗れそうだが、それだけでは「2030年の15兆円」の達成は無理だろう。TSMCの熊本第2棟の建設も始まったが、それでも15兆円のハードルは高い。2030年の時点でRapidusの実績をアテにするわけにもいかない。となると、これを達成するには「国内でのDRAM増産」が不可欠だ、と筆者は断言したい。ではどうするか。韓国大手のいずれかを誘致するか、キオクシアにDRAM事業に参入してもらうか、という選択肢が浮上する。

 最近では「SK Hynixが宮城県の誘致に応じるかも」などというニュースが複数のメディアで報道されているが、その信ぴょう性は極めて低いと言わざるを得ない。もともと宮城県は台湾PSMCの誘致を目指して準備を進めていたが、残念ながら誘致話は破談に終わった。その代わりにSK Hynixを誘致してはどうか、ということのようだが、レガシーロジックの中規模生産を前提としていたPSMCと、HBMなど最先端DRAMの大規模生産を前提とするSK Hynixとでは誘致条件が全く異なる。そもそも最先端DRAMの大規模生産には、1台当たり1メガW以上の電力が必要なEUV露光装置を5台入れるのか、10台入れるのか、という議論が発生する。レガシーロジックの中規模生産では出てくるはずのない議論である。このような重要な点を無視して「ひょっとしたらSK Hynixが」などと無責任なウワサをまき散らすのはいかがなものか。昨今のAIブームにけん引される半導体需要は最先端ロジックおよび最先端メモリに偏っており、そういう製品を手掛ける企業を誘致する際には、企業側だけでなく誘致側にもそれなりの準備と覚悟が必要なのだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る