Armの契約違反認定も、Qualcommへの賠償は「2ドル」:最大5年間のロイヤリティー停止も焦点に(2/2 ページ)
ArmとQualcommの訴訟で、米連邦地方裁判所の陪審はArmによるライセンス契約違反などを認定した。一方、Qualcommに認められた損害賠償額はわずか2米ドルにとどまった。今後は、Qualcommが求める最大5年間のロイヤリティー支払い停止が認められるかが焦点となる。
Nuvia買収が発端、4年にわたる法廷闘争
Nuviaの設計資産をQualcommの製品に活用する動きに対し、Armは強く反発した。2022年3月、ArmはNuviaのライセンス契約を解除し、Qualcommに対し、Nuviaの開発成果を基にした設計ファイルを全て破棄するよう要求した。Armは、自社のライセンス契約では、事前に明示的な承諾を得て契約条件を再交渉しない限り、異なる法人間で独自設計を移転することは認められていないと主張した。
Qualcommは自社が保有する包括的なライセンスによってOryonコアの開発と商用化が認められていると主張し、設計データの破棄を拒否した。これを受けてArmは2022年8月、米デラウェア州の連邦地方裁判所に提訴した。同社は契約違反と商標権侵害を主張し、Nuvia由来の技術を利用したチップの製造差し止めを求めた。
この訴訟では、当初Qualcomm側に有利な判断が相次いだ。2024年12月、デラウェア州の陪審は、Qualcommの独自CPU技術は同社が既に締結していたALAで適切にライセンスされていて、QualcommはNuviaに関するライセンス契約にも違反していないと判断した。2025年9月30日、担当判事は陪審の判断を支持する最終判決を下すとともに、Armの残る請求を法的判断に基づいてしりぞけた。Armはその後、米連邦第3巡回区控訴裁判所に控訴し、審理が続いている。
Qualcommは、Armからの訴訟に対応する一方、2024年4月には自らもArmに対して訴えを起こした。ArmがTLAとALAの双方に違反していると主張したのだ。具体的には、Armが必要な技術サポートを提供していないこと、合理的なライセンス条件を提示していないこと、Qualcommと顧客との取引関係に不当に干渉していることを挙げた。
2024年10月、紛争はさらに激化した。ArmがQualcommとのALAを解除すると警告する正式な通知書を送付したのだ。これによって、Qualcommのプロセッサ「Snapdragon」の世界的な生産が停止するおそれが生じた。
Armは2025年1月に通知を撤回したものの、Qualcommはこの一件をArmの不誠実な行為を示す事例として訴えに盛り込んだ。これを受けて、2026年10月に米デラウェア州ウィルミントンで裁判が開かれることになった。
今回の評決に先立って行われた5日間の審理では、陪審が両社間のライセンス契約の条件や社内のやりとりを検証した。2026年10月9日に審理を終えた陪審は、同月13日に評決を下し、QualcommがArmのアーキテクチャを利用して独自プロセッサを設計する際の条件を定めたALAにArmが違反したと認定した。
一方、陪審はTLAに関する他の契約違反の主張についてはArm側の主張を認め、Qualcommの請求をしりぞけた。
ロイヤリティー停止でArmに打撃も、業界への影響は
2026年10月の評決は、Qualcommが独自設計の半導体を商用化する権利を確認しただけでなく、Armの財務面にも不確実性をもたらすものとなった。今回の審理では、Armに重大な契約違反があった場合、ライセンシーがロイヤリティーの支払いを5年間停止できる可能性がある契約条項に注目が集まった。
2026年10月19日時点で、判事はこの契約条項の法的有効性について判断を下していない。この条項が有効と認められれば、QualcommはArmの重大な契約違反を理由に、最大5年間にわたってロイヤリティー支払いを全面的に停止できる可能性がある。
この措置が認められた場合、Armにとって財務上の影響は大きい。QualcommはArmにとって最大級の収益源の1つで、2024会計年度にはArmの全世界売上高の約10%を占めていた。Qualcommからのロイヤリティー収入が5年間途絶えれば、Armのキャッシュフローが減少し、研究開発資金の確保や、2023年9月の新規株式公開(IPO)以降の市場評価にも影響が及ぶ可能性がある。
完成品メーカーにとって、今回の評決は事業運営上の不確実性を和らげるものとなった。「Snapdragon 8 Elite」を搭載するスマートフォンメーカーや、Oryon CPUを採用した「Snapdragon X」シリーズを搭載するPCメーカーなどは、チップ供給が途絶えるリスクの低下という恩恵を受けることになる。
一方、今回の法廷闘争は、独自アーキテクチャのライセンス供与に対する業界の見方にも変化をもたらした。Armが主要顧客であるQualcommとの訴訟に踏み切ったことを受け、半導体設計企業やクラウドサービス事業者の間では、長期的なリスクを軽減するため、RISC-VなどのオープンなISAへの投資を加速させる動きが広がっている。
今回の評決によって、少なくとも現時点では、Qualcommが独自設計の半導体を製品に採用する法的権利が確認された。今回の判断は、テクノロジー業界における企業間の商取引の在り方にも変化をもたらすことになりそうだ。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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