硬いシリコンを「曲げ伸ばし」でテラヘルツ波を制御:MEMS加工で微細な渦巻きばね構造
大阪産業技術研究所(ORIST)は東北大学との共同研究において、硬くてもろい単結晶シリコン基板を、MEMS微細加工技術によって曲げたり伸ばしたりできる構造に変え、これを機械的に変形させることでテラヘルツ波に対する光学応答を制御することに成功した。
高抵抗単結晶シリコン基板に、微細な渦巻きばね構造を形成
大阪産業技術研究所(ORIST)の研究グループは2026年10月、東北大学との共同研究において、硬くてもろい単結晶シリコン基板を、MEMS微細加工技術によって曲げたり伸ばしたりできる構造に変え、これを機械的に変形させることでテラヘルツ波に対する光学応答を制御することに成功したと発表した。
周波数が約0.1〜10THzのテラヘルツ波は、電波と光の性質を併せ持つことから非破壊検査や材料分析、セキュリティ検査、センシングさらには、6G(第6世代移動通信)やその先の無線通信などに対する応用が期待されている。これらを実現するためには、テラヘルツ波を効率よく発生・検出できる技術に加え、低損失での伝送や位相、偏光などを自在に制御できる光学材料が必要となる。
こうした中、テラヘルツ波における吸収が少なく、屈折率が高い光学材料として高抵抗単結晶シリコンが注目されている。しかも、MEMS微細加工技術によって、導波路やレンズ、偏光素子などを高精度に作製できる。ただ、単結晶シリコンは硬くてもろい材料であり、応力や衝撃が加わると破壊する可能性が高い。
研究グループは今回、MEMS微細加工技術を用い、単結晶シリコン基板が機械的に変形できる構造とした。具体的には、厚み200μmの高抵抗単結晶シリコン基板に、周期200μmの渦巻きばね状構造を作り込んだ。シリコンの線幅および空隙の幅はおよそ10μmである。フォトリソグラフィによって基板上に微細なパターンを形成した後に、深堀り反応性イオンエッチングによって、シリコン基板を貫通加工した。これにより、シリコンと空気だけの自立型フレキシブル構造を実現した。
この基板を伸ばすと、ばね構造の隙間が広がりテラヘルツ波が通過する領域に占める空気の割合が増える。研究グループは作製したシリコン基板について、テラヘルツ時間領域分光法を用い、「伸長していない状態(自然長)」「7.3%伸長」「12.6%伸長」という3つの状態でテラヘルツ透過特性を測定した。また、入射するテラヘルツ波の偏光方向を、伸長方向に対して平行な方向と垂直な方向に設定し、シリコン構造の変形に伴う偏光依存性を調べた。
この結果、0.6THz以下の領域では高い透過特性を維持しつつ、伸長量の増加に伴って有効屈折率が単調に低下するのを確認した。12.6%伸長時には、伸長方向に垂直な偏光で有効屈折率の低下率が約6%となり、周波数にほとんど依存しなかった。ところが、伸長方向に平行な偏光では、有効屈折率の低下率が最大約8%に達するなど、周波数に対する依存性が現れた。これらの結果から、シリコン構造を伸長することで実効屈折率を変化させ、複屈折も機械的に調整できることを実証した。
今回の研究成果は、大阪産業技術研究所電子・機械システム研究部の山根秀勝主任研究員や山田義春主幹研究員、近藤裕佑主任研究員、宮島健主任研究員、村上修一研究室長らによる研究グループと、東北大学電気通信研究所の冨士田誠之教授(兼大阪大学大学院基礎工学研究科 招へい教授)によるものである。
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