産業/FA/医療――新市場狙い活気づくWi-Fi市場、勝ち残る戦略は何か?:無線通信技術 Wi-Fi
今までインターネットにつながってこなかった、「非PC/モバイル」の機器が、M2Mやモノのインターネットというコンセプトと絡みつくことで、新たな市場が生まれようとしている。今後数年で競争が激しくなることが予想されるこの市場で、いかに戦っていくか。組み込み向けWi-Fiモジュールを手掛けるサイレックス・テクノロジーの戦略をまとめた。
無線LAN(Wi-Fi)の用途拡大は著しく、PC周辺機器やモバイル機器にとどまらず、デジタル家電にも採用が広がっている。さらにここ最近、Wi-Fiの新たな市場として注目を集めるようになったのが、「M2M(Machine to Machine)」や「Internet of Things(モノのインターネット)」といった言葉で語られる領域だ。
M2M/モノのインターネットという言葉の定義はさまざまだが、エネルギー、環境、医療、ヘルスケア、交通、物流、農業、産業機器といった今までインターネットにつながってこなかった、「非PC/モバイル」の機器が、M2M/モノのインターネットというコンセプトと絡みつくことで、新たな市場が生まれると期待されている(関連記事:なぜ今M2Mネットワークなのか?、注目を集める2つの理由)。
非PC/モバイルの市場、具体的には産業/FA機器や医療機器、OA機器に絞り、数年前からWi-Fiモジュールを手掛けてきたベンダーが、サイレックス・テクノロジーだ(関連記事その1、その2)。「台数はそれほど出ないが、信頼性や安定供給の要求が強い」という市場を対象に、機器への組み込みやすさや少量生産/長期供給への対応、技術サポートの手厚さを訴求し、採用件数を順調に増やしてきた。
ただ、市場環境は変わりつつある。先に述べたように、非PC/モバイル市場への期待が高まり、さまざまな企業が注目するようになった。例えば、BroadcomやTexas Instrumentsは、モノのインターネット市場を対象に、機器に簡単に組み込めることを特徴にしたWi-Fiモジュールの提供を始めている(関連記事その1、その2)。この他、Wi-Fiモジュールとファームウェアのみならず、モジュールの統合管理システムも一括で提供するベンチャー企業もある(関連記事)。
このように、「数年後には競合多し」となりそうな状況で、どのような戦略で事業を進めていくのか? またWi-Fiモジュールの今後の開発の方向性とは? サイレックス・テクノロジーが2012年2月15日に開催した戦略説明会の内容を基にまとめた。
「無線化が10年遅れているFA機器」に切り込む
現在のサイレックス・テクノロジーの事業の柱は、(1)USB/シリアルデバイスサーバのライセンス、(2)Wi-Fiモジュール関連製品、(3)AVネットーワーク製品の3つである。かつては、プリントサーバの売上比率が80%という時期があったが、事業の構造転換を進め、プリントサーバの売上比率は2008年に63%、2012年に22%へと減らしてきた。
プリントサーバの売上高割合が下がるのを補うように成長しているのが、USB/シリアルデバイスサーバとWi-Fiモジュール関連製品の事業だ。Wi-Fiモジュール関連事業については、対象市場を絞るという同社の戦略が成功し、出荷台数を伸ばしてきた。2012年のWi-Fiモジュールの出荷台数は、2011年の2.5倍程度に相当する35万台に増える予定である。
ただ、前述の通り、現在はWi-Fiにとってニッチな市場である産業/FA機器や医療機器、OA機器の市場も、数年後には競争が厳しくなる可能性が高い。これに対する同社の戦略は、主に3つにまとめることができる。
まず1つは、親会社となる村田機械とのシナジー効果を高めることである。サイレックス・テクノロジーは村田機械からのTOB提案を受け入れ、2011年12月に100%子会社となった。村田機械は、各種FA/産業機器を強みとしており、「民生機器に比べて10年遅れていると言われる」(サイレックス)、FA/産業機器の無線化を両社で推進する。2012年夏には、FA/産業機器の無線化を促進する製品を市場投入する予定だ。
2つ目は、デジタルサイネージ市場を対象にしたAVネットワーク事業の売り上げを伸ばすことである。日本でもデジタルサイネージ市場を拡大しようとする機運が高まっている。この機を捉え、同社にとって第3世代となる映像配信システム「MVDS X-5」を売り込む。この映像配信システムには、同社のWi-Fiモジュールが採用されている。従って、AVネットワーク事業の拡大に伴って、Wi-Fiモジュールの出荷数も増えることになる。
3つ目は、電池駆動のアプリケーションも想定し、Wi-Fiモジュールの低消費電力化を進めることである。Wi-Fiモジュールの消費電力は、Wi-Fiチップの製造プロセスやスリープモードの活用具合に依存するように思えるが、同社によればドライバソフトウェアの作り込みの寄与が非常に大きいのだという。そのため同社は、例えば通信距離や通信状況に合わせて送信電力を最適化するといった電力マネジメント技術を独自に開発しているという。
この他、BluetoohとWi-Fiをうまく連携させた新たなアプリケーションの開拓も進める。例えば、Bluetoothタグを身に付けた人が据え置き型のBluetooth/Wi-Fiアクセスポイント近づいたときに認識情報をやりとりすることで、その人の位置を測位できる(あらかじめ据え置き型機器の座標のデータベースをサーバに持っておく必要がある)。このような仕組みを使って、「どこで誰が何をしているか」が分かるロケーションシステムを構築し、物流や医療の分野に提案するといった計画である。
同社の代表執行役社長を務める河野剛士氏は、「コスト競争力のあるWi-Fiモジュールを生産することは前提だ。さらに当社には、ハードウェアやソフトウェアの仕様だけでは分からない付加価値に強みがある。具体的には、導入が難しい機器に組み込むときの技術サポートや、機器に合わせて無線通信の性能を最大に引き出す開発支援などだ」と語った。
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