欧州はST-Ericssonを手放せるか、買収に名乗りを上げる中国企業:ビジネスニュース オピニオン(2/2 ページ)
巨額の損失を抱え、売却が秒読み段階に入ったとみられるST-Ericsson。米国企業や中国企業が売却先の候補として挙がっているが、ST-Ericssonを欧州以外の企業に売り渡すことは、欧州にとって半導体分野における面目を失うことになりかねない。
ST-Ericssonの売却については、売却先の他にも気に掛ることがある。それは、“ST-Ericssonを活用できるのは誰か”ということだ。筆者の考えでは、その答えは、中国の企業数社とAppleである。Appleは、ST-Ericssonを買収することで、開発能力を強化できるだろう。これは、同社のモバイル機器戦略を展開する上で、有利に働くと考えられる。
ST-Ericssonの技術力や同社が長い時間をかけて築いてきた西半球諸国との業務関係を維持するには、AppleまたはIntelによる買収がベストといえるだろう。しかし、ST-Ericssonのような巨大半導体企業の買収は、Appleの経営手法には合わない。Appleはこれまで、同社にとってカギとなる技術や設計能力を有する、小規模で若い半導体設計企業を、買い得感のある価格で買収するという手法を採ってきた。
また、Appleは、ST-Ericssonの顧客関係も含めた同社のすべてを必要としているわけではない。このため、STとEricssonがST-Ericssonを短期間のうちに高値で売却したいのであれば、HiSilicon Technologiesなどの中国企業に売却した方が良いと考えられる。なお、HiSilicon Technologies は、Huawei TechnologiesのASICデザインセンターとして設立された半導体企業である。
この他、ST-Ericssonの買収に興味を示している中国企業には、Rockchip、Xincomm、Leadcore Technology、Nufront、Spreadtrum Communicationsなどがある。このうちST-Ericssonの買い手として最も有力なのは、Huawei Technologiesの支援を受けるHiSilicon Technologiesと、China Datang Corporation(CDT)と提携関係にあるLeadcore Technologyだと考えられる。この他、台湾勢ではMediaTekが買い手として挙がっている。
地政学的な要素も軽視できない
ST-Ericssonは、他の多くのモバイル機器向け半導体企業と同様に、中国市場と中国独自の第3世代携帯電話通信規格であるTD-SCDMA(Time Division - Code Division Multiple Access)に目を向けてきた。中国や台湾のモバイル機器向け半導体企業にとって、ST-Ericssonの買収は、契約条件によって多少の違いはあるものの、TD-SCDMA規格への対応だけでなく、ST-Ericssonの有する特許技術の利用や、世界中の3G(第3世代)/4G(第4世代)市場への参入といったメリットをもたらすものとなる。
しかし、ST-Ericssonのような巨大半導体企業の売却においては、地政学的な要素も軽視できない問題だ。ST-Ericssonを売却することは、西欧諸国にとって、半導体開発における面目を失うことでもある。そのため、水面下では、西欧諸国に技術や仕事をとどめようとする動きが起こることも考えられる。だが、欧州に何ができるだろうか。欧州には財政破綻しそうな国が多く、経済的に順調な国は少ない。EU(欧州連合)27カ国は、可能であるなら、AppleやIntelといった欧州以外の企業が欧州の半導体業界に参入するのを阻止し、ST-Ericssonを守りたいはずだ。一方、AppleとIntelは、消費者市場の大きさから、欧州に魅力を感じている。
昨今のモバイル機器市場におけるAppleの勢力は絶大である。結局のところ、Appleのデザインウィンを獲得しさえすれば、少なくともそのデザインに向けた部品供給の契約期間中は、ST-Ericssonの売却にまつわる問題の多くは解決されるはずだ。
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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