年々圧迫される携帯通信インフラ、どのような対策があるのか?:無線通信技術
スマートフォンやタブレットPCの普及を発端に、「キャパシティー(通信容量)の不足」や「制御信号(シグナリング)による負荷増大」といった携帯通信インフラの課題が表面化してきた。現在の携帯通信インフラの課題や対応策の概要をHuawei Japanに聞いた。
携帯通信インフラにおけるデータトラフィックの急増にいかに立ち向かうか? ここ最近顕著なのが、3G回線から公衆無線LANサービスにデータトラフィックを回避する動きだ。国内の通信事業者各社は、公衆無線LANサービスを強化するとともに、5GHz帯の無線LANを採用したスマートフォンを投入するといった対策を進めている。「Wi-Fi spot」と書かれたロゴを街中で見ることが増えたと感じている方も多いのではないだろうか。
ただ、公衆無線LANサービスへのデータトラフィックの回避が「その場しのぎ」であることは明らかだろう。既に、3G(第3世代の携帯通信)回線からトラフィックを流した先である、無線LANの混雑が現実の問題として表面化してきている。例えばウィルコムは、東海道新幹線で提供している無線LANサービスにおいて、動画やファイルダウンロードを対象に通信を制限すると発表した(ニュースリリース)。
現在の携帯通信インフラが抱える課題とは? これを克服する方策は? 2009年に業界で初めて商用LTEネットワークを構築し、既に全世界で28もの商用LTEネットワークを構築したHuaweiの日本法人(Huawei Japan)の担当者への取材を基に、現在の状況をまとめた(関連記事)。同社は2012年3月に4x4 MIMO運用試験を商用LTEネットワークで実施したり、同年5月にはカテゴリー4(最大下り通信速度150Mビット/秒)の商用LTEネットワーク運用試験を実施するなど、新たな携帯通信インフラの研究開発を積極的に進めている。いずれも、業界初の試みだという。
Huawei Japanのマーケティング本部長を務めるJustine Zhang氏(左)と、ワイヤレス・マーケティング部担当部長の鹿島毅氏(右) Justine Zhang氏は2012年4月まで現職。
スマートフォン普及を発端に顕在化した幾つかの課題
数年前から、通信事業者が無線のネットワークインフラに投資してもそれを回収できないという問題が指摘されていた(関連記事)。「以前から指摘されてきたことではあるものの、スマートフォンやタブレットの普及を発端に、より現実的な課題として認識されてきた」(Huawei Japanのワイヤレス・マーケティング部担当部長の鹿島毅氏)という。
同氏は、現在対応が迫られている、また今後対応が必要になる携帯通信インフラの課題を3つ挙げた。1つ目は、「キャパシティー(通信容量)」の不足。2つ目は、「制御信号(シグナリング)」のやりとりによるネットワーク負荷の増大。3つ目は、クラウドサーバを使った音声認識サービスの広がりにも耐える「低遅延」を実現することだ。
データ容量の大きな動画をダウンロードして楽しめるスマートフォンやタブレットPCの急速な普及がデータトラフィックを増大させ、携帯通信インフラを圧迫する――。モバイル機器が広く使われるようになり、このようなデータトラフィックの観点だけではなく、シグナリング(制御信号)による負荷という今まで見えていなかった問題が顕在化してきた。電源ケーブルのつながったPCならば、ずっと電源をオンにしても特に問題はないだろう。しかし、二次電池で駆動するモバイル機器の場合はオン/スリープを頻繁にくり返し、できるだけ長く稼働させるようにしている。データ通信が終わるとその都度ネットワークとの接続を切断する、「ファストドーマンシー(Fast Dormancy)」と呼ぶ端末のソフトウェア制御技術である。これが、今まで想定されていなかったシグナリングトラフィックを生んでいる。さらに、音声認識を使うクラウドサービスが実用化されたことで、データの伝送遅延に対する要求も厳しくなっている。
運用しやすくかつ物理的にシンプルに
データトラフィック増大への対策に絞ると、例えば周波数帯や無線通信方式を増やすマルチバンド・マルチアクセス化や、空間多重技術(MIMO)の採用が一般的だ。さらには、800GHz帯基地局で広いエリアをカバーし、1.5GHz帯では特定のエリアをカバーするといったように、カバー範囲が異なる基地局を混在させる「ヘテロジニアスネットワーク」も注目されている。
ただ、インフラの強化を進めるとは言っても、増強コストをいかに低く抑えるかが重要だ。例えば、1つの筺体(キャビネット)で複数の周波数帯域の送受信に対応したり、基地局の設置自由度を高められるよう小型化するといった取り組みがある。「論理的には複雑なネットワークであっても、運用しやすくかつ物理的にシンプルにすることに主眼を置いた、無線ネットワークの開発が進んでいる」(鹿島氏)。
Huaweiの取り組みを例にすると「物理的にシンプル」という観点では、異なる無線通信方式、周波数帯を1つの装置に集約した「SingleRAN」を提案している。わずか3種類の基本モジュールで構築でき、これらを柔軟に組み合わせることで、LTE基地局のさまざまな展開パターンに対応できるという。一方の「運用しやすく」という観点では、複数の基地局を自律的に連携させる「SON(Self Organizing Network)」と呼ぶ技術を、SingleRANに採用した。
この他、ドイツテレコムのオーストリアの商用LTEネットワークで、2012年3月に実施した4×4MIMOの運用試験の成果は、「LTEネットワーク側で、4×4MIMOを採用する準備が整っていることを示すものだ」(Justine Zhang氏)という。現在導入が進んでいるLTEネットワークは、一般に2×2 MIMOに対応しているという。MIMOの構成数を上げることで、データのスループットを高めたり、基地局のカバー範囲を広げることに大きな効果が見込める。「特に欧州の携帯通信ネットワークでは、1つの基地局で広い範囲をカバーすることが求められる。その点で、4×4 MIMOは有効な技術だ。基地局のカバー範囲の端にある機器との通信特性を高めることにも貢献する」(同氏)。1.8GHz帯と2.6GHz帯の周波数帯で試験を実施した。
さらに将来、携帯通信インフラを進化させるどのような技術候補があるのだろうか(関連記事)。鹿島氏は、一例として電波の指向性を制御する「アクティブアンテナシステム(Active Antenna System)」を挙げた。都市部など密集地域では基地局を設置する場所が限られている。アクティブアンテナシステムを採用すれば、基地局を設置した場所の電波環境が悪くても、指向性を制御することで特性を引き出すことが可能になるという。
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