オリンピックは盛況も、テレビ業界は振るわず:ビジネスニュース オピニオン(2/2 ページ)
ロンドンオリンピックでは、スーパーハイビジョンや3Dで競技が放映されるなど、放送技術について新しい試みが行われた。だが、残念ながら、こうした放送技術が視聴者の注目を集めることはなかったようだ。
スーパーハイビジョンの登場
ロンドンオリンピックのいくつかのイベントは、歴史上初めてUHDTVで撮影された。日本のNHKと英国BBCの放送技術チームは共同で、32Mピクセルの映像と24ch(あるいは22.2ch)サウンドシステムで競技を撮影した。NHKによると、UHDTVの画質は現在のHDTVの画質の16倍優れているという。
ロンドンオリンピックでは、2台のUHDTVカメラが固定位置で使用された。カメラから出力した非圧縮の信号は、専用の光ファイバーでロンドン西部にあるBBC Television Centerに送られ、短い番組を作るために連日編集された。また、信号は、並行で動作している8つのH.264/AVCエンコーダを用いて圧縮され、世界中のパブリックビューイングの劇場に送信されている。
しかし、UHDTVのパブリックビューイングは、英国のブラッドフォード、リバプール、ロンドンの他、東京や福島といった一部の都市でのみ行われた、やや限定的なものであった。米国では、ワシントンDCにあるComcast-NBC Universalの事務所にパブリックビューイングが設置された。
NHKは、「UHDTVは2020年まで商品化されない」という見通しを立てている。UHDTVが一般市民にほとんど認知されていないという状況が分かるだろう。
しかしながら、Appleの「iPhone 5」や「iPad mini」に関するさまざまなうわさに振り回されてばかりのハイテク業界において、今回の放送技術がオリンピックで成し遂げた偉業は、もっと評価されてもいいだろう。
この記事を発信する時点で、UHDTVに関するツイートは、全体でたった2件だけだった。うち1件は、スイスのジュネーブを拠点とするEuropean Broadcast Unionが投稿したもので、当然のことながら、ロンドンからのスーパーハイビジョンの放送を“オリンピックの放送技術における大きな飛躍”として宣伝していた。もう1件のツイートは、あるアーティストによるもので、「待ちきれない。今のPCは、8K映像の編集に対応するには遠く及ばない。ピクセル数が16倍になるなら、PCの性能も16倍に高める必要がある」という内容だった。
スーパーハイビジョンに関するツイートがたった2件……。まったく信じられないことだ。人々は一体どうしたのか?
3Dテレビは成長の兆しなし
それよりも懸念すべきなのは、米国の消費者の間で、3Dテレビを新たに購入する動きがほとんどみられないことだ。オリンピック開催前の3カ月間にもそうした動きはみられなかったし、おそらくオリンピックの閉幕後も3Dテレビが急速に売れ始めることはないだろう。
市場調査会社である米国のThe NPD Groupで産業分析部門のディレクタを務めるBen Arnold氏によると、2012年第2四半期に米国で販売された薄型テレビのうち、3Dテレビが占める割合は11%で、2012年第1四半期の9%からわずか2ポイント上昇しただけだった。
オリンピックの公式スポンサーであるパナソニックは、オリンピック放送の3D技術は全て同社が提供していると宣伝した。だが、Arnold氏は、「3Dテレビはそれほど大きな注目を集めなかった」と分析する。
Arnold氏は、「今後も3Dテレビの販売が大きく伸びることはない」との見解を示している。同氏は、「見るときに眼鏡を装着する必要がある、3D対応のコンテンツが少ないなどのデメリットにより、消費者は3Dテレビを“可もなく不可もなく”といった程度にしか評価していない」と述べた。NPDは、実際に眼鏡をかけて3Dテレビを見ている人の数は把握していないという。米国市場では、3Dテレビの所有者はわずか5%であるため、信ぴょう性の高い結果を出せるほど十分なサンプル(調査対象)がない、というのが現状のようだ。
【翻訳:青山麻由子、山内幸代、編集:EE Times Japan】
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