非核三原則に学ぶ、英語プレゼンのポイント:「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(17)(1/7 ページ)
海外でのミーティングに備えてどれほど準備を前倒ししようとも、当日はやはり、英語でプレゼンテーションをしなくてはなりません。ただし、プレゼンにも、われわれ「英語に愛されないエンジニア」が知っておくべきコツはあります。そのコツとは、ずばり、英語での議論が必要になる話題を「持たない」「作らない」「持ち込ませない」こと。つまり、非核三原則と同じように考えればいいのです。
われわれエンジニアは、エンジニアである以上、どのような形であれ、いずれ国外に追い出される……。いかに立ち向かうか?→「『英語に愛されないエンジニア』」のための新行動論」 連載一覧
交通量がすっかり少なくなった深夜の道路を暴走する1台のタクシー。運転手は、一言も口をきかず、厳しい表情のまま激しい勢いでハンドルをさばいています。私はタクシーの中で左右に振り動かされながら、後ろの席でおびえていました。
ベルリンの壁が崩壊して数年が経過していましたが、ライトアップされて不気味に立っているブランデンブルグ門をくぐり、旧東ドイツ側に入ると、さらに交通量は減り、街全体が一層暗く感じられるようになりました。
もう、すっかり気分は『東側のスパイに拉致されて鉄のカーテンの向こうへ送り込まれるネットワーク技術者』。
ああ、これから私は、西側要人の電話を盗聴したり、銀行やストックマーケットのネットワークをハッキングしたりして西側の経済システムを破壊する、クラッカーとして暗躍させられるんだ……という妄想にうなされながら、暴走するタクシーの取っ手にしがみついていました。
しかし、今になって思うと、私がこのような妄執に取りつかれていたのは、私の方にも後ろめたさがあったからだと思います。この出張に関して、私には、あらかじめ仕掛けておいた「計略」がありました。名付けて、
――英語に愛されないエンジニアによる、「人のふんどしで相撲を取る作戦」
作戦の成否は、この出張にかかっていて、私はそのことで頭がいっぱいだったのです。
プレゼンテーション、“表向きの”テクニック
こんにちは、江端智一です。
今回から「プレゼンテーション編」を前後半の2回に分けて説明します。前半では、プレゼンテーションのテクニック、策略などの、分かりやすい「表向き」の戦略をお話します。
そして、次回の後半では、単なるエンジニアという役割を越えて、会社の利益を担うあなたが、外交的なセンスによって看破しなければならない「裏向き」の――空気を読む戦略(KY戦略)――について説明する予定です。
さて、今回の話に入る前に、これまでの連載の流れを復習してみましょう。
まず、第10回では、プレゼンテーション資料作成の留意点として、(a)言語を極力使わない、(b)絵を描き倒す、(c)ページを減らす、(d)簡単に書く、(e)資料にプレゼンテーションのセリフを埋め込んでおく、ということを説明しました。
また第11回では、誰か他の人が作ってくれた英語の文章をマネして構わないとする「コピペ戦略」を、さらに、第15回、第16回では、海外出張先で、ミーティングを単なる“内容確認の場”としてしまう「未来完了戦略」を紹介しました。
そして、今回のプレゼンテーション(表向き)編においては、まず、われわれ英語に愛されないエンジニアのプレゼンテーションの問題点とその解決方法について触れます。
その後、第5回において説明した通り、プレゼンテーションのポイントを、我が国の「非核3原則」と同様の位置付けで説明します。つまり、英語に愛されないわれわれによる英語のプレゼンテーションにおいては、議論が必要になるような話題を「持たない」、「作らない」、「持ち込ませない」ということです。
プレゼンは“不完全”でいい
最初にお断りしますが、プレゼンテーション資料の構成、発表方法、フィードバックなど、他の文献から手に入る情報についてはばっさり割愛します。そのような本は、世の中に山ほどあるからです。
ここでは「英語に愛されないエンジニア」のプレゼンテーションに特化した事項に限定してお話します。
第10回でも述べましたが、私が見ている限り、ほとんどの日本人のプレゼンテーションは、英語であるか否かにかかわらず、絶望的なほどひどい。プレゼンテーションには「求愛行動」という意味もありますが、どの生物界に、手元の原稿を見ながら異性にプロポーズする生き物がいるでしょうか。私は日本人のプレゼンテーションを見るたびに、「日本人のプレゼンテーションは動物以下か」、とため息が出そうになります。
元をただせば、日本人は人前で発表する時のメンタルが弱いとか、学校においてディベートの教育が行われていないとか、企業においてプレゼンを行う機会が少なく、プレゼンが重視されていないとか、色々なことが言われていますが、私はちょっと違うと思っています。
私は、「完璧な情報を、100%正確に伝えるプレゼンテーションをしようとするからだ」と思っているのです。
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