無線センサーをWebサーバ並みに接続しやすくするための取り組み:無線通信技術 IoT(2/2 ページ)
モノのインターネット(IoT)の重要な要素であるワイヤレスセンサーネットワーク。IPプロトコルを使用して低消費電力メッシュネットワーク機器をインターネットに接続できるようにする取り組みが進んでいる。
規格に基づく世界
標準規格はネットワーク技術で重要な役割を果たす。技術が主要な標準化団体によって承認されていることが分かると、信用度が高まるからだ。また、IEC 62591(WirelessHART)は産業用プロセスの標準規格だが、IPは、同市場の枠を超えた、通信の標準規格となっている。
インターネットに接続された全ての機器は、IPを使用して互いに通信している。各機器は、インターネット上で自身を明確に特定するIPアドレスを取得する。やりとりされるデータパケットはIPヘッダを持ち、ここに、パケットを生成した機器および宛先の機器のアドレスをエンコードしたバイト列が格納されている。プロトコルスタックを構成するには、他にも多くのプロトコル(TCP、HTTPなど)が必要だが、共通項目はIPプロトコルだ。IPプロトコルを使用して低消費電力メッシュネットワーク機器をインターネットに接続できるようにすることは、IoTの発展に貢献する。このため、複数の標準化団体が、IoT向けの規格を開発してきた。
インターネットとの統合
IETF(Internet Engineering Task Force)は、現在のインターネットで使用されているほとんどのプロトコルを策定している標準化団体である。IETFでは、CoREワーキンググループがCoAP(Constrained Application Protocol:制約付きアプリケーションプロトコル)というアプリケーション層プロトコルを策定した。CoAPは、UDPプロトコルの上で動作し、簡単にHTTPに変換してワイヤレスセンサーノードと、Webのようなやりとりを行える。また、6LoWPANワーキンググループは、IPパケットの大きなヘッダを小さなワイヤレスフレームまたはデータパケットに圧縮し、センサーノードをIPアドレスによって個々に特定できるようにするIPアダプテーション層を策定した。これらの上位層は、Webのようなやりとりとインターネットとの統合を可能にするが、ワイヤレスセンサーネットワーク通信の品質を決定するのは、それらの下にあるプロトコル層だ。
IETFによって作られた規格は通常、IEEE 802.15.4に準拠する無線チップで動作する。同規格は、データレート(250kビット/秒)、通信範囲(数十〜数百m)、電力消費(送受信時に5〜20mA)、パケットサイズ(最大127バイト)のトレードオフを提供する。このトレードオフにより、IEEE 802.15.4は低消費電力のメッシュネットワーク技術にうまく適合し、この類のネットワーク向けとしては事実上、標準的な接続技術となった。
2012年、IEEEは、IEEE 802.15.4準拠の無線機器で動作する新しい媒体アクセス規格として「IEEE 802.15.4e」を発表した。このTSCH(Time Slotted Channel Hopping:時間スロットチャネルホッピング)モードは、高精度なタイムスロット同期およびRFチャネルホッピングを実現するために時間同期メッシュネットワークの原理を取り入れている。
IEEE802.15.4eは、2つのノードが同期データパケット転送を確立するメカニズムを規定しているが、各ノードにスケジュールを割り当てる方法は規定していない。通信スケジュールは、ネットワーク内のノードの通信ニーズに合致するような柔軟性をTSCHネットワークに提供する。例えば、遠隔環境モニタリングでよくみられる低データレートおよび超低消費電力の小規模ネットワークから、より高速なデータスループットに最適化された大規模ネットワークまで、同じネットワークで構成が可能だ。
さらに、自動的に割り当てられるにもかかわらず柔軟性を持つスケジュールにより、TSCHネットワークは周辺環境の変化に適応できる。特に、自己回復、ルーティングの最適化、ロードバランシングなど、スケジューリングによって実現されるネットワーク機能は、ネットワークのライフサイクル全体にわたって高い性能を維持するために重要になる。TSCHスケジュールを構築および割り当てるためのソリューションは開発可能だが、規格が確立されるまでは、こうしたソリューションは無線上の相互運用に対応できない。
ただし、この状況は、IETF内の新しい標準化活動である「6TSCH(Deterministic IPv6 over IEEE802.15.4e TSCH)」によって変わりつつある。この活動は、Cisco Systemsとリニアテクノロジーが共同委員長を務めていて、TSCHスケジュールを、スケジュール決定主体が管理できるようにするため、現在欠けている部分の通信プロトコルを規定するというものだ。IPプロトコルスタックに残っているギャップを埋めることで、有線を使った場合のレベルの信頼性を持ち、相互運用可能な、完全に標準化されたIPベースのワイヤレスセンサーネットワークを実現できる。
Web開発者は、WebリクエストをセンサーのIPアドレス宛に送信することでリアルタイムのセンサーデータを要求できるようになる。また、これを支えるワイヤレスセンサーネットワークは、このような通信を99.999%を超えるデータ信頼性でサポートする。前述したように、Webサーバにアクセスする時と同じくらい簡単にセンサーにアクセスできるようにすることで、ワイヤレスセンサーネットワークはIoTに現実世界の情報を供給できるようにする。
無線通信におけるマルチパスフェージングの効果
マルチパスフェージングは、環境内にある物体の位置と特性に左右されるので、実際の設定では予測不能になる。ただし、マルチパスフェージングが原因で受信されていないパケットを、別の周波数で再送すると、高い確率で成功する。
環境内の物体は、常に同じ場所にとどまっているとは限らない。自動車ならば通り過ぎるし、ドアなら開け閉めされる。そのため、マルチパスの効果は経時的に変化する。
下記の図は、2つの産業用センサー間における単一の無線経路でのパケット到達比率を、26日間にわたり、システムが利用する16のチャンネルについて示したもの。1週間単位のサイクルで確認すると、平日と週末で明らかに違いのあることが分かる。どの時点でも良好なチャネル(高到達比率)と不良チャネルがあり、その他のチャネルの状況もさまざまだ。チャネル17は概して良好だが、到達数がゼロの期間もある。チャネル性能はそれぞれ異なり、ネットワークのどの地点においても良好なチャネルはない。
干渉とマルチパスフェージングを考慮すると、信頼性の高いワイヤレスシステムの構築には、チャネル/経路の多様性を利用することが重要になる。
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