テレビ放送の改革となるのか、「ATSC 3.0」にまつわる10の事項(前編):ビジネスニュース 業界動向(2/2 ページ)
テレビ番組の視聴方法が変わりつつある今、米国では、デジタルテレビ放送規格「ATSC」の次世代バージョン「ATSC 3.0」への取り組みが進んでいる。どのような議論が交わされ、どのような実証実験がなされているのか、ATSC 3.0の最新事情を紹介する。
放送業界が抱く危機感
1つ目の理由として、米国の放送事業者が、政治的な影響を受けて苦境に陥っていることがある。
米国連邦通信委員会(FCC:Federal Communications Commission)が検討中の周波数オークションは、次世代モバイルブロードバンドの構築の一助になると予想される。一方、多くの放送局は、このオークションによって近い将来、テレビ放送が危機にさらされるのではないかと危惧している。
米国のコンサルティング会社であるArlen Communicationsでプレジデントを務めるGary Arlen氏は、「周波数オークションによって、テレビ放送専門の放映は大きく減少し、ワイヤレスキャリアの帯域利用が拡大すると予想される」と述べている。
2つ目の理由は、商業的な側面にある。米国のDigital Tech Consultingでプレジデントを務めるMyra Moore氏は、「放送局が映像プログラムの配信方法の急激な変化に対応し続けるには、新たなプラットフォームやツールが必要だ」と指摘する。
ATSC 3.0の導入と併せて、放送局のエンジニアは、データの伝送能力と堅ろう性を大幅に高めることを目指している。最終的には、1つの6MHzチャンネルだけで、4Kテレビとモバイル端末にコンテンツを同時に放送することを目標にしている。物理層の伝送量は、OFDM(直交周波数分割多重方式)と次世代ビデオ圧縮技術「HEVC」によって増強される見通しだ(関連記事:H.264の後続規格「HEVC」は、インターネットビデオ市場に変革を起こせるか?)。
さらに重要なのは、産業グループが既に、ATSC 3.0にIPベースの伝送方法のみを採用すると決断していることだ。これによって同規格は、多くのブロードバンド通信やモバイル通信に、より対応しやすくなると予想される。
Arlen氏は、「ケーブルテレビ、通信事業者が運営するテレビ放送(telco TV)、ワイヤレスサービスが提供する補助的なサービスや高度なサービスとの競争に米国の放送局が勝ち抜くには、IP技術が必要だ」と指摘する。
移行のシナリオ
ATSC 3.0の支持者は、同規格への移行を順調に進めるには、帯域の柔軟な利用と将来的な拡張性が重要だと考えている。
ATSC 3.0への移行のシナリオとしては、まず、放送局がHDTVとLTEの両方に対応したコンテンツを同じチャンネルで同時に伝送するという方法がある。また、無料放送の他に、有料テレビ番組をアラカルトで提供する方法も考えられる。ATSC 3.0の推進団体は、こうした柔軟なサービスモデルを提供することが、放送局がビジネスモデルを見直したり、改革したりする機会になることを望んでいる。
では、ATSC 3.0の導入は、視聴者にとってはどんなメリットがあるのだろうか。
米国の市場調査会社であるEnvisioneering Groupでリサーチディレクタを務めるRichard Doherty氏は、「ATSC 3.0を導入すれば、多くの放送局がすぐに多重チャンネル放送を開始できる。例えば、Disneyは、ABCとESPN(スポーツチャンネル)、Family Channel、Newsなどを1つのチャンネルで提供できるようになり、CBSは、昼メロや昔のドラマの再放送、新番組を高精細で放送できる。つまり、視聴者とプログラマーの双方にとって選択肢が増えることになる」と説明する。
放送局は、この課題に挑む用意はあるのだろうか。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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