産業用IoT向けイーサネット規格、「TSN」の普及を目指す:ビジネスニュース 業界動向
モノのインターネット(IoT)がトレンドになっているのは民生機器分野だけではない。産業機器分野にもIoTをより浸透させるため、拡張版イーサネット規格「TSN(Time-Sensitive Networking)」の普及を目指す取り組みが始まっている。
プロフェッショナル向けオーディオ/ビデオ(AV)配信と産業用制御機器には、意外にも共通点が多い。例えば、スピードが重要視される情報配信を実現する上で、いずれも低遅延かつ広帯域幅ネットワーク接続を必要とする点が挙げられる。
National Instruments(NI)でシニアグループマネージャを務めるTodd Walter氏によると、業界団体「AVnu Alliance」はもともと、イーサネットの普及を推進し、オーディオ/ビデオデータ配信をサポートするための中核的な団体として設立されたという。AVnu Allianceは、IEEEがイーサネット規格「Ethernet AVB(IEEE802.1 Audio/Video Bridging)」を策定するに当たり、その普及を後押しすべく、相互運用性に関する基準を定義したり、実装を認証したりするための適合試験を実施している。
AVnu Allianceは現在、産業/自動車用途向けにEthernet AVBを拡張した新規格「TSN(Time-Sensitive Networking)」の普及を目指し、取り組みを進めているところだ。こうした活動に注力していくための一環として、AVnu Allianceの既存の参画メンバーであるBroadcomやCisco Systems、Intel、Xilinxに加え、新たにBeldenとGE(General Electric)、NIを迎え入れたという。
TSNは、産業用ネットワークに必要な条件を満たすことを目指す、拡張版イーサネットである。遅延に関しては、最低でも1ホップ当たり4μ秒未満(ショートメッセージの場合は1Gビット/秒)を維持することを目指す。また、代替パスと複数のクロックパスを瞬時に切り替えたり、複数の同時ストリームを用いてシームレスな冗長性を提供することによって、ネットワークの堅ろう性を高めていく。さらに、大規模な実装に対する拡張性を実現すべく、設定や帯域幅予約に必要な管理トラフィックを低減するという。
産業用イーサネット規格の必要性が高まる
Walter氏は、「モノのインターネット(IoT)の登場により、産業用イーサネット規格の必要性が高まっている。IoTでは、それぞれ個々に存在するサーバやデータ、分析、視覚化などを、全て集約する必要があるためだ」と述べている。
GEのグローバルリサーチ部門でプロジェクトリーダーを務めるDan Sexton氏は、「産業用IoTを機能させるには、誰もが準拠できる一連の標準規格を策定して、データをやりとりする必要がある。イーサネットはこれまで、産業システムを集約するものとして機能してきたが、決定性に欠けることが懸念されている。TSNでは、こうした問題を解決し、さらに強力に集約することを目指す」と述べる。
TSNの取り組みに関しては、イーサネットを定義するIEEE 802規格のサブグループが、以下の通り複数参加しているという。
- プロジェクト802.1ASbt:時刻同期の修正
- プロジェクト802.1Qbu:Preempt(プリエンプト)向け規格の切り替え修正
- プロジェクト802.1Qbv:タイムアウェアキューイング(time aware queuing)向け規格の切り替え修正
- プロジェクト802.1Qca:パス制御および冗長ネットワーク登録のサポート修正
BroadcomのシニアテクニカルディレクタであるMichael Teener氏によると、これらの規格はいずれも技術的には安定しているという。ただ、承認には1年以上はかかるとしている。
AVnu Allianceは、産業用イーサネットの規格化に参加したい企業/団体を募集している。Didier氏は、「市場がこれ以上断片化しないよう、共通の組織を作っていきたい」と述べている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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