“スプレー式太陽電池”、実用化の可能性が高まる:エネルギー技術 太陽電池
IBM Canadaの研究センターは、あらゆる物の表面に噴霧可能な“スプレー式”太陽電池の開発に取り組んでいる。コロイド状の量子ドットを1成分とするスプレー式太陽電池を実用化できる可能性が出てきた。
“スプレー式太陽電池”は、過去10年にわたって夢の存在だった。だがついに、IBM CanadaのResearch and Development Centreが、実現への鍵を手にした。Research and Development Centreは、University of Toronto(トロント大学)など7つの大学が参加するコンソーシアムである。
IBMの社員で、博士研究員としてトロント大学のTed Sargent教授のグループで同技術の研究に取り組むIlllan Kramer氏は、「具体的には公表できないが、スプレー式太陽電池の成分はコロイド状の量子ドットである」と述べている。
Kramer氏は、EE Timesに対して、「コロイド状の量子ドットは、溶液相で浮遊する半導体ナノ粒子である。ナノ粒子は非常に小さいため肉眼で見ることはできないが、ナノ粒子を含む溶液はインクのように黒くなる。フィルムにインクを塗布する方法は、インクジェットプリント方式やスロットダイ方式、スプレー方式など、さまざまな方式がある。われわれは、インク溶液とスプレーの液滴サイズの両方を調節して、噴霧された溶液が基板に到達するまでにコロイド状量子ドットが“ほぼ乾く”組み合わせにたどりついた」と説明した。
量子ドットは、より明るいLEDや太陽電池を組み込んだスマートウィンドウなどへの活用が進んでいる。IBM CanadaのResearch and Development Centreとトロント大学は、「量子ドットを利用したスプレー式太陽電池を今世紀中に実現できる見通しが立った」と述べている。Kramer氏はALD(原子層蒸着技術)をもじって、同技術を「sprayLD」と呼んでいる。
ロール状に丸められる太陽電池の登場?
Kramer氏は、「平らなガラス基板やフレキシブルなプラスチック基板、半球状のガラス基板に溶液を噴霧したところ、これら3種類の基板全てが太陽電池として機能した。平らなガラス基板は、比較のために用意した、バッチ処理で形成した基板とほぼ同等に機能した。だが、実際に製造するとなれば、フレキシブル基板や半球状基板の方が実現の可能性が高い。フレキシブル基板の場合、新聞印刷機のような方法で溶液を噴霧して、基板をロール状に丸めることもできる。半球状基板は、飛行機の翼や車のフェンダーのように平らではない面にスプレー式太陽電池を適用するための概念実証として有効である」と説明した。
変換効率については、最高で8.1%を実現したという。ただし、Kramer氏は「市場で販売するために10%を目指す」としている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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