IoT市場、理想形とは程遠く:オピニオン 2015 CES(2/2 ページ)
モノのインターネット(IoT)は、「2015 International CES」でも話題の中心だった。だが、スマートフォンを中心に多くの機器がつながるという意味では、準備が整っているとはとてもいえない状況であることが、CESで明らかになったのではないだろうか。IoT機器が消費者にどんなメリットを与えられるのか、大手家電メーカーさえうまく把握できていない印象を受ける。加えて、プライバシーとセキュリティの問題も解決が必要だ。
“購入意欲”の種をまく
Accentureでマネジングディレクタを務めるJohn Curran氏は、「当社が世界24カ国の2万4000人の消費者を対象として行った世界規模の調査によれば、スマート機器の使い方が難しいと思っている消費者は、全体の83%に達する。業界は最初からIoTについて見直す必要があることを示す割合だといえるだろう」と述べる。
Curran氏は、「スマート機器を早い段階で手に入れるユーザーは、コネクテッドワールドにおける“使者”のような役割を担う。業界が正しい方向に進み、IoT機器が普及する上で必要な存在だ」と述べる。
同氏は、新しいカテゴリの製品を消費者に受け入れてもらうには、さまざまな段階を踏まなければならないと説明する。業界は、製品の“認知度”を高めるために、これまでにないユーザー体験を作り出すことによって刺激を与える必要がある。それが、消費者の購入意欲へとつながっていくのだ。
これに対してSamsungは、IoT対応ワインセラーを一例として取り上げたことにより、消費者に“購入意欲”という種をまくことに見事に失敗してしまった。
現在既に簡単にできていることを、(スマートフォンやタブレットで制御するシステムを構築した)IoT機器で置き換えるというのは、消費者にIoTを売り込むための方法としては間違っているのではないだろうか。消費者は少なくとも、自分の手や脳、創造力を使うことにプライドを持っているのだ。
もちろん、家中の窓を一斉に施錠して電気を消し、家全体を瞬時に“夜モード”に切り替えることができるのは、素晴らしいことかもしれない。しかし、一般消費者の多くはそれほど大きくない家に住んでいて、生活パターンが夜型の家族がいる場合もある。このような場合には、ホームオートメーションは、感動するような便利な機能というよりも、煩わしい機能になってしまう可能性もある。
ARMのDrew氏は、サイロ(業務プロセスや業務アプリケーションシステムなどが、外部との連携を持たずに自己中心的で孤立している様子)の問題についても繰り返し指摘している。「現在はどの機器も、その機器にだけ“オープンな”エコシステムの中で動作しているというような状況だ。しかし、IoT業界には現在、150のコンソーシアムが存在することから、今後このような窮地を救ってくれる業界標準化団体が現れることを期待している。今後5年以内に、誰もが『本当に簡単だ』と驚くようなソフトウェアを開発してくれるだろう」(同氏)。
データの所有権は誰にあるのか
もう1つ重要なのが、データの所有権に関する課題だ。Drew氏は、「絶対に解決しなければならない問題である」と主張する。
CEVAでマーケティング担当バイスプレジデントを務めるEran Briman氏は、CES会場においてEE Timesのインタビューに応じ、「当社の一部の顧客企業は、常時接続が可能な新世代スマートフォンの開発に興味を持っている。周囲の会話を聞き取り、現在置かれている位置や、室内に誰がいるのかを把握し、ユーザーの指示に従って常に動作可能な状態にあるという端末だ」と述べる。
Briman氏は、「スマートフォンに搭載されているイメージセンサーを使えば、常に周囲を監視するシステムを作ることもできる。低解像度の画像を1秒当たり1フレーム程度の速度で送信するものだ」と一例を挙げた。あるいは、ショッピングモールを歩いている時に、スマートフォンが周囲から情報を集め、近くにどんな店があるのかを知らせてくれるといったものも考えられる。
だが、誰がこのようなシステムが欲しいと頼んだのだろうか。
センサーがデータを収集している間、(スマートフォンの)ユーザーは、そのデータを誰が所有することになり、どのように使われるのかを気にしないのだろうか。
AccentureのCurran氏は、「プライバシーとセキュリティは、CESのIoT関連のディスカッションでも話題の中心だった」と述べている。「IoT機器を販売するメーカーにとって、透明性が非常に重要になる」(同氏)。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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