検索
連載

地球温暖化の根拠に迫る世界を「数字」で回してみよう(11) 環境問題(5/5 ページ)

今回は、二酸化炭素(CO2)がどのように地球を暖めるのか、そして、「2100年には、最悪で平均気温が4.8℃上昇する」という説に根拠があるのかを検証したいと思います。地球温暖化の仕組みは、太陽と地球をそれぞれ「ラジオ放送局」と「ラジオ受信機」と考えると分かりやすくなります。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

もう、温暖化の計算には手を出さない

――2週間後。

江端:「教えてもらった『簡略化温室効果モデル』を使って、CO2の飽和モデルと単純な線形モデルの両方で、計算してみたんだけど、IPCCの『最悪値』とはかなり離れてしまったよ。なんか落ち込むなぁ」
後輩:「ちなみに、どの程度?」
江端:「2100年で、せいぜい1℃程度の上昇、といったところだったかな」
後輩:「江端さん。IPCCは2100年、4.8℃を『最悪値』と言っているだけですよ*3)。最も楽観的なケースでは、何度だと思います?」

*3)参考資料

江端:「3℃くらい?」
後輩:「1℃以下ですよ」
江端:「予想範囲広いな!」
後輩:「だから、江端さんが今回、回してみた数字、もしかしたら、それほど外れていないかもしれませんよ」
江端:「そ、そうかな?」
後輩:「でも、江端さん。もう一度言いますよ。IPCCは、論文やら計算を公開しています。それらを理解することが恐ろしく難しいのも分かります」
江端:「……」
後輩:「しかし、結局のところ、“日本の人口予測”をする程度の気安さで、この問題(地球温暖化の計算)に安易に手を出した、江端さんが悪いんです」(本当にこう言った
江端:「……もう勘弁してください」


 今回は、後輩との掛け合いの形で、地球温暖化のメカニズムを、一通りのストーリーとしてご紹介致しました。

(Step.1)地球が太陽からエネルギーを受け取る
(Step.2)そのエネルギーで地球が温められて、地球の大地が赤外線を放出する
(Step.3)しかし、その赤外線の大部分を地球の大気が取っ捕まえることで、地球は一定の温度を保っている
(Step.4)しかし、CO2が増えると、赤外線を今より多く取っ捕まえることになるので、地球温暖化が進むことになる

と、まあ、ここまでは疑いないようですが、

  • 今後、CO2が増えると、どのくらい赤外線を取っ捕まえることになるのか(比例するのか、増加するのか、飽和するのか)が今一つよく分からん。ここに、水蒸気などの要因が乱入して、温室効果がさらなる温室効果を導く可能性だってある
  • IPCCにしても、「放っておけば、将来、絶対にこうなる」などと主張しているわけではない

などをお話させていただきました。

 では、次回は、今回登場したIPCCの組織とその役割、京都議定書、そして環境ビジネスに関して、数字で回してみたいと思っています。

<参考文献>

  • 「大気化学入門」ダニエル ジェイコブ(Daniel J. Jacob)
  • 「一般気象学」小倉義光
  • 「Excelで操る! ここまでできる科学技術計算」神足史人
  • 「グリーン革命(上)(下)」トーマス フリードマン
  • 「武器なき“環境”戦争」池上彰、手嶋龍一


※本記事へのコメントは、江端氏HP上の専用コーナーへお寄せください。


アイティメディアIDの登録会員の皆さまは、下記のリンクから、公開時にメールでお知らせする「連載アラート」に登録できます。


Profile

江端智一(えばた ともいち)

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る