将来技術動向編:人類社会の明日に貢献する半導体チップ:徹底プレビュー「ISSCC2015の歩き方」(12)(2/2 ページ)
今回は、次世代の技術動向を紹介するセッションを見てみよう。風邪をひいたことを検出する腕バンドや、吐く息からがん疾患を発見する小型のガスクロマトグラフィー、磁性体スピンを利用して組み合わせ最適化問題を解く手法などがある。
人間の吐く息を分析して、がん疾患を発見
セッション21(革新的な個人向け生体医療システム)では、外形寸法が小さなガスクロマトグラフィーシステムの開発成果が興味を引く。台湾のNational Taiwan Universityの研究成果である(講演番号21.5)。人間の吐く息からがん疾患に特有の揮発性有機化合物を検出する。前段のガス濃縮器と分離カラム、ガス検出器、低雑音の出力回路、システム制御ユニットなどをワンチップのSoC(System on a Chip)にまとめた。チップ寸法は3.3mm×3.6mm。検出感度は15ppb。消費電流は1mA以下である。
米国のUniversity of Virginiaと米国のUniversity of Michiganの共同研究チームは、エネルギー収穫機能を備えたIoT(Internet of Things)向け無線通信チップを報告する(講演番号21.3)。6.45μWと非常に低い電力で動く。
スイスのUniversity of Applied Sciences of Southern SwitzerlandとスイスOculox Technologyの共同研究グループは、生体に埋め込むスマートなレンズを想定した、視圧センサーを発表する(講演番号21.7)。センサーの分解能は0.036mbarである。
組み合わせ最適化問題を効率良く解けるイジングマシン
セッション24(IoT向けの安全で効率的な回路)は、セッション23に続けて開催される、ハーフセッションとなっている。このため、発表件数は全部で4件と少ない。その中で半分の2件が日本の研究開発グループによる発表というのが、ISSCCの中ではかなり珍しい。そして1件はたぶん、このセッションで最もユニークな講演だといえる。それは日立製作所による、「イジングマシン」を実装したシリコンダイの発表である(講演番号24.3)。
「組み合わせ最適化問題」といった、現在のコンピュータ・アーキテクチャでは計算時間が膨大で解くのが困難な問題を、磁性体のスピンを利用して現実的な計算時間で効率良く解く手法が「イジングマシン」である。日立が開発したイジングマシン・チップは、20K個の磁性体スピンを集積したもの。製造には65nmのCMOSプロセスを利用した。20K個の磁性体スピンというのは現在の研究レベルでは非常に膨大な数であり、実際に組み合わせ最適化問題を効率よく解けることを実証してみせた。電力効率は既存のコンピュータの1800倍に達するという。
日本からのもう1件の発表も要注目である。慶應義塾大学とJAXA(Japan Aerospace Exploration Agency)の共同開発による成果だ(講演番号24.4)。電磁結合の共有バスによって小型化と軽量化を実現した人工衛星搭載用プロセッサである。共有バスのデータ転送速度は6.5Gビット/秒。
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