会社の成長に“イノベーション”は不要? 本物の企業価値とは:勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(1)(4/4 ページ)
企業の業績の低迷や、製品のシェア低下といった状況だけを見て、「日本のモノづくりは弱くなった」と主張する声は少なくない。そして、たいていは「イノベーションが必要だ」と声高にうたっている。だが、企業の成長は本当にイノベーションに依存しているのだろうか。本当に“強い”企業に必要な要素は、他にないのだろうか。
“強い企業”とは何か
例えば、皆さんが「企業の強さ・実力」などを見極めるときには、企業の何を(どこを)見るだろうか?
雑誌、新聞の見出しを思い浮かべてもらいたい。「電機大手 ○×株式会社、○○期の業績を下方修正へ」ならまだマシだが、こうした企業の決算と日本全体のモノづくりを無理やり関連付けて、「電機は軒並み下方修正、どうする日本のモノづくり」「弱体化する日本の製造現場、当期決算最終赤字へ転落」などと、やたら日本の製造業は終わったかのような見出しを平気で付けている。なぜ、業績が悪化したからと言って、モノづくりが弱くなった、現場が弱体化するなどと決めつけるのか、その根拠を示せるのであればぜひとも示してもらいたいところだ。
賢明なる皆さんは、このような上っ面だけで企業の強弱を判断していないと思うが、そうは言っても、企業はしかるべく業績を出してこそ企業の存在意義を示せるということも、紛れもない事実である。
図3をご覧いただきたい。
このピラミッドは、東京大学 モノづくり経営研究センター センター長である藤本隆宏氏の著書『日本のもの造り哲学(日本経済新聞社)』に書かれている文章から、筆者がチャート化したものである。
われわれの目に見える売り上げ・利益や株価などの「収益力」、製品の価格やブランド、シェアなどで示される「表の競争力」だけで、モノづくり企業が強くなった・弱くなったかと議論をしていないだろうか? 同図にもあるように、強い企業というものは、われわれからは直接見えない、生産性を高めるための工夫や改善をたゆまぬ努力で継続しているのであり、いわば「裏の競争力」を持っているのだ。すなわち、この「裏の競争力」があるからこそ、「表の競争力」である製品を生み出せるのであって、それこそ、「企業の収益が悪化した」「製品が売れない」からといって、現場が弱くなったわけではないのである。さらに、この「裏の競争力」をの源泉として「モノづくりの組織能力」が企業組織に染み付き、企業文化として根付いているので、“容易に真似できない領域”を持っていることは間違いない。
この「組織能力」をいかに「製品の付加価値」と「設計の思想(=製品アーキテクチャ)」に入れ込んでいくのかを提案するのが、本連載の目的でもある。
読者諸氏、皆さんは何らかの形でモノづくりに関わっていると思う。
開発納期、コスト削減に追われ忙しい現場が目に浮かぶ。技術力、開発力、設計力を上げることも大事で言うまでもないが、本連載で皆さんにお伝えしたいことは、
・強い製造業、製造メーカーになるために、上流の現場エンジニアが知っておくとためになること
・ちゃんと売れてお客さまも喜んでくれる製品を世の中に出すことを目的とし、付加価値や価値を生み出す組織づくりを考えること
・パクられても何ら困ることのない製品設計にすること
などなどを目的とし、時に脱線しつつ、皆さんにお伝えしていければと考えている。
Profile
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱。技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。2012年からEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』『“AI”はどこへ行った?』などのコラムを連載。
一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)で技術系ベンチャー企業支援と、厚生労働省「戦略産業雇用創造プロジェクト」の採択自治体である「鳥取県戦略産業雇用創造プロジェクト(CMX)」のボードメンバーとして製造業支援を実施中。
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