5Gに向けた取り組み、欧州ではまだ足並みがそろわず:ビジネスニュース 業界動向(2/2 ページ)
欧州委員会(EC)は「MWC 2015」で、欧州における5G(第5世代移動通信)の現状について説明した。欧米の通信事業者は2020〜2025年に5Gの実用化を目指しているが、現時点では、まだ欧州連合(EU)諸国の足並みがそろっておらず、無線通信市場が“細分化”している状態だという。
EUのデジタル市場は「28に細分化されている」
筆者は、Oettinger氏に質問する機会を得たので、「EUが周波数帯の割り当てルールを統一し、加盟国による周波数オークションを終了させたいと考えているのかどうか」を尋ねた。Oettinger氏はこの質問に詳細に答えてくれたが、要するに、「電波政策は現在、EU加盟国の28人の財務大臣に一任されているが、財務大臣の関心は利権にしかない。こうした状況を変えなければならない」ということらしい。
同氏の回答の詳細は次の通りだ。
ECは、欧州のデジタル政策を統一し、“真のデジタル連合”を実現することを目指している。欧州は、平和のために団結して価値観と通貨を統一した歴史を持ち、“欧州市場”という単一市場を形成している。工業製品や食品、自動車/トラック、財務サービスに関しては完全な単一市場であるが、デジタルサービスに関しては統一されていない。
EUのデジタル市場は、28に細分化されているようなものだ。28のデータ保護規則があり、28の監査機関がある。ECはこうした現状を受け、“デジタル単一市場(DSM:Digital Single Market)”の実現を次の一大プロジェクトと位置付けている。2015年5月までに、そのための取り組みや課題を1つにまとめる計画だ。2015年9月には関税についての議論を完了させ、著作権に関する議論を始める予定だ。さらに、音声/ビデオのデジタルメディアサービスの方向性や、インフラ、標準規格、データセキュリティなどについても検討していく。
周波数帯に関しては、DSMに関する方針の中で明確で実現性のある提案をしている。ネット中立性やローミングの実現にも取り組んでおり、周波数帯を“最も慎重に扱うべき課題”と捉えている。5Gの定義が確定する前に5Gへ移行する場合は、欧州における明確な電波政策が必要だ。電波政策を策定することなく、新しい技術を採用することはできない。
EUが適正化や調整、欧州の周波数帯の利用に関する権限を持つには、EU加盟各国がそのための一歩を踏み出す必要がある。だがその時期は、2015年ではなく2018年にすべきだ。現時点では、EUの電波政策はEU加盟国の財務大臣が担当しているが、28人の財務大臣は利権にしか関心がない。電波政策の担当は、デジタル政策担当大臣に変更する必要があるだろう。そして、デジタル政策担当大臣から、欧州の議会や各機関、現在進行中のプロセスへと引き継いでいくべきである。私は、DSMは2020年までに実現されると確信しているが、もちろん実現は早ければ早いほどよい」(Oettinger氏)。
国際的な取り組みが必要
Oettinger氏は、日本やアジア諸国、米国の企業が5G PPPに参加していることは喜ばしいことだとし、「5Gの実用化は、国際的な取り組みであり、1つの地域のみで進めるものではない」と強調する。5Gは、今世紀の前半において、最も大きな国際的取り組みとなるのである。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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