普及進まぬ3G網、サムスンの苦戦――東南アジアの通信事情:ビジネスニュース 業界動向(2/2 ページ)
スマートフォンの普及拡大の鍵を握る新興国の1つである東南アジア。同地域ではWi-Fiが急速に普及する一方で、3G/4Gの導入が進んでいない。また、1万円程度のローエンドスマートフォンを販売する地元メーカーの台頭でSamsung Electronicsが急速にシェアを失うといった動向が見られる。
「iPhone」のシェアは?
iPhoneは、そもそも東南アジアでのシェアはかなり低い。佐藤氏は「やはりiPhoneは高価な端末。スマートフォンの販売台数でiPhoneが上位にくるのは、実は米国と日本くらいしかない」と述べている。
Appleの2014年度第3四半期(2014年4〜6月期)における地域別売上高とシェア(単位は百万米ドル)。見て分かる通り、単独で国名が出ているのは米国と日本のみである。Appleの資料を基に情報通信総合研究所が作成した(クリックで拡大)
3G/4GよりもWi-Fi
スマートフォンの普及拡大とともにWi-Fiの導入率も高くなっている。前出の図版「東南アジアの携帯電話事情」からも分かるように、東南アジアでは3G/4Gの導入があまり進んでいない。4Gにいたっては導入していない国が半分だ。3Gの導入が最も進んでいるのはタイで、こちらは2Gの周波数帯を4Gに割り当てるべく、政府と通信事業者が2Gから3Gへの移行を積極的に進めているという背景がある。
東南アジアでは3Gネットワークが全域にわたって整備されているわけではないので、2GのSIMカードで十分というユーザーが多い。このため3GのSIMカードが売れない。するとますます3Gの普及が遅れる、という現象になっている。
一方でコンビニやカフェ、屋台、ホテル、交通機関では無料(または安価)でWi-Fiに接続できるサービスの導入が進んでいる。多くのユーザー、特に若者は、普段は2Gを使い、高速通信を行いたい時はそうした場所に行くという。
佐藤氏は、3G/4Gの普及について「Wi-Fiの普及スピードよりは遅く、時間がかかるだろう」と見ている。ただ、同氏によれば、Wi-Fiのバックボーンとして3G/4Gを使うケースも増えていて、これが3G/4G普及の鍵になりそうだ。佐藤氏は「光やADSLなどの固定回線を引くのはコストがかかる。Wi-Fiのバックボーンとして3G/4Gのインフラを整えるのは通信事業者にとってもメリットがある」と説明する。
AEC発足、通信業界のメリットは?
ASEANでは、2015年に発足予定のAEC(ASEAN経済共同体)が注目されている。ASEAN各国が、モノ、ヒト、サービスの面でメリットを享受できると期待されているが、佐藤氏は「通信業界の動きは遅い」との見解を示している。「通信は、周波数の割り当てを各国で決めているなど、その国に主権が委ねられている。EU(欧州連合)を見ていても、統合されたからといって何か1つのことをやっていこうという動きは見えにくいだろう」(佐藤氏)。ただし、可能性としては、AEC発足によるメリットとしてローミングがしやすくなることが挙げられるという。「EUの時も統合のメリットはローミングだった。ドイツ人がフランスに(観光や仕事で)行った時に、ドイツにいる時とほぼ同じ料金で携帯電話機を使うことができる」(同氏)。
一方で端末に関しては、統合による動きはほとんどないと、佐藤氏は見ている。「例えばインドネシアのMito Mobileがマレーシアでも端末を売れるようになるかというと、そこまでのマーケティング力はない。Xiaomi(シャオミ)ですら売り上げの97%は中国。やはり地元メーカーが海外で端末を販売するというのは大変なことだ。携帯電話機はコモディティ化したとはいえ、精密機器だ。サポート体制がしっかりしていなければ対応しにくく、そのため海外では売りにくいという側面がある」(同氏)。
差別化は、ますます難しく
スマートフォンのコモディティ化は、東南アジアメーカーの間でも進んでいて、差別化はますます難しくなっている。各通信事業者はイメージキャラクターやキャンペーンなどで差異化を図るしかない。さらに、ネットワークのつながりやすさも、各通信事業者でほとんど変わらないという。というのも、日本のようにどこに行っても携帯電話がつながるという状況ではないからだ。佐藤氏は、「ネットワーク品質よりも、とにかく“安さ”が求められるのではないか」と見ている。
関連キーワード
通信 | アジア | スマートフォン | Samsung | SIMカード | ASEAN | プリペイド携帯 | 業界動向(エレクトロニクス) | ASEAN経済共同体(AEC) | ビジネスニュース(EE Times Japan)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 中国とインド、携帯電話インフラ市場の成長を促進
2014年の携帯電話インフラ市場は、中国とインドがけん引した。インドは、市場規模はまだ大きくなく、2015年も爆発的に成長するわけではないものの、実は多くのキャリア(通信事業者)が投資をしている。 - 4G通信で変わるのはケータイだけではない、組み込みの世界が変わる
LTEなどの4G通信が注目を集めている。動画など大容量データの転送時間が短くなることが注目されているが、組み込みシステムを作る側からすれば、4G通信のメリットはそこにはない。 - 小米(シャオミ)創世記――粒ぞろいの経営者たち
今やサムスン、Appleに次ぐ世界第3位のスマートフォンメーカーとなった中国のXiaomi。だが2014年初頭は、世界的にはほとんど騒がれていなかった。Xiaomiの生い立ちを、7人の経営者のバックグランドとともに紹介する。 - Amazon「Fire Phone」の失敗から、エンジニアが学べること
満を持して投入されたAmazon「Fire Phone」ではあるが、業界内では「失敗」との見方も強いようだ。開発エンジニアは、製品開発コンセプトについて、Fire Phoneから何を学べるのだろうか。 - Appleが首位サムスンに肉薄――2014年10〜12月スマホ世界シェア
IDCは、2014年第4四半期(10〜12月期)におけるスマートフォンの出荷台数を発表した。トップはSamsung Electronics(サムスン電子)だが、Appleが「iPhone 6」「iPhone 6 Plus」によって大きく出荷台数を伸ばし、Samsungに迫る勢いを見せた。一方のSamsungは、シェアを28.83%から20.01%に落としている。