“生体コンピュータ”の実現へ、米大学がCMOSを組み込んだ有機体の生成に挑む:新技術(2/2 ページ)
米国のジョージア工科大学の研究チームが、超低消費電力の“生体コンピュータ”の実現に取り組んでいる。研究チームは、まずはCMOSセンサーと細胞を組み合わせて、創薬や医療診断の分野に生かしたいとしている。
“オーダーメイド医療”の実現も
Zhirnov氏はEE Timesのインタビューに対し、「近いうちに、いわゆるビッグデータが、さらに爆発的に増加すると考えられている。それに対応できる新たな手法が必要だ。われわれにとっての課題は、特に医療や健康科学の分野において、どのように合成生物学を適用し、半導体を用いてビッグデータを処理することができるのかという点にある」と語った。
同氏は、例として患者の遺伝体質に合わせた“オーダーメイド医療”を挙げている。現在では、遺伝的素因に関する膨大なデータベースを作成して一人一人のゲノム配列を解析している。さらに新しい適用例としては、患者に実際に投薬する前に、研究室でその特定の薬剤に対する個人の反応を検査するといったことも実現に近づいている。
「Wang氏が取り組んでいるプロジェクトでは、細胞を半導体インタフェースに結合させることにより、特定の細胞内で何が起こっているのかを示す信号を読み取るという試みが行われている。われわれは、このようなプロジェクトに対して資金を提供していく。次の段階では、例えば特定の物質に対する感度を持っているというような、より望ましい性質を備えた新しい細胞を作り出し、それをセンサーとして利用することができると期待している」と述べている(Zhirnov氏)。
まずは創薬分野での応用を目指す
Wang氏は、“CMOSハイブリッド生命体”の実現に向けた最初のステップとして、生体細胞の活動を検知・測定できるCMOSチップと信号処理メカニズムを組み合わせ、創薬や医療診断の実用化に貢献したいと語った。
従来の創薬では、受動的な細胞を用いる。各細胞をわずかに異なる薬にさらした後、レーザーなどでスキャンし、反応をチェックする。これによって、どの薬をさらに試験すべきかを絞り込むことができる。Wang氏によると、残念ながら、薬に対する細胞の光学的あるいは電気的反応を測定するだけでは、細胞内のあらゆる変化は十分には捉えられないという。
Wang氏は、薬に対する細胞の完全な代謝反応を見つけるべく、同氏が呼ぶところの「センシングピクセル」を開発した。各ピクセルが、異なるパラメータを自身で測定する。CMOSチップは、それらのデータをまとめるセンサーフュージョンの役割を果たす。
Wang氏は、「われわれの研究の革新的な点は、144個(12列×12列)のセンシングピクセルを備えたアレイを搭載したCMOSセンサーを用いることだ。各センサーは、同じ細胞の上で同時に測定を行う。これによって細胞内の変化を完全に検知できる」と説明する。
Wang氏は今後、このプロジェクトにおいて2つの計画に取り組んでいく。センサーのピクセル数を最大1000個まで増やすことと、アクチュエータを追加して細胞を刺激することだ。同氏は、アレイのサイズは100μmから80μmに縮小したいという。最終的には、細胞1個と同等レベルの大きさで、かつ、1個当たり1000を超えるセンシングピクセルを持つアレイを開発する計画だ。
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
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