有機薄膜太陽電池で変換効率10%を達成、実用化に大きく前進:エネルギー技術 太陽電池(2/2 ページ)
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター創発分子機能研究グループの尾坂上級研究員らによる共同研究チームは、半導体ポリマーを塗布して製造する有機薄膜太陽電池(OPV)で、エネルギー変換効率10%を達成した。同時に、変換効率を向上させるための分子構造や物性、分子配向と素子構造の関係などについても解明した。
電子と再結合せず、電流量が増加
太陽電池は、発電層の厚みを増すと光吸収量が増加し、電荷の発生量も増える。しかし、半導体ポリマーはシリコンなどの材料に比べてホール移動度が低く、電極に到達する前に電子と再結合するため、電流を取り出すのが難しく、変換効率が低下するのが課題であった。これに対して、今回用いたPNTz4Tは、従来の半導体ポリマーに比べて結晶性が高く、ホール移動度が高いため電子と再結合せずに、電流量が増加して変換効率が向上した。
さらに、発電層をX線で構造解析したところ、PNTz4Tはポリマー分子が基板に対して平行な「フェイスオン配向」と、基板に対して垂直な「エッジオン配向」の分子が混合した状態になることが分かった。OPVではフェイスオン配向した分子の比率が高いほど電荷を流しやすいといわれている。
従来の順構造素子と、今回用いた逆構造素子における発電層中のフェイスオン配向分子の割合も調べた。この結果、逆構造素子にはフェイスオン配向分子が多く含まれることが分かった。電極の上部と下部についてもその割合を調べた。この結果、素子構造に関係なく、上部電極側にフェイスオン配向、下部電極側にエッジオン配向の分子割合が多くなることが分かった。これらのことから、逆構造素子にすることで、ホールを収集する陽極が上部電極として配置され、変換効率の向上につながったとみている。
今回の研究成果により、OPVで変換効率10%を達成するための分子構造や物性などを解明した。今回の成果を基盤に、実用化のめどとなる最低15%の変換効率に向けた研究が加速される見通しだ。なお、本研究の成果は、英国の科学雑誌「Nature Photonics」オンライン版へ5月26日(日本時間)に掲載された。
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