ルネサス、車載向け90nm BCDプロセス量産を発表:車載半導体首位を取り戻す起爆剤
ルネサス エレクトロニクスは、アナログとロジック回路を混載できる最小加工寸法90nmのBCDプロセスで車載向けデバイスの量産を開始したと発表した。同プロセスを武器に、欧州の競合に後じんを拝している車載向けアナログ/パワーデバイス領域でのシェア拡大を目指す。
車載向けで「世界初」
ルネサス エレクトロニクスは2015年7月31日、90nm BCDプロセスによる車載向けデバイスを量産を開始したことを明らかにした。90nm世代での車載向けBCDプロセスの量産化は世界初とみられる。
BCDプロセスは、Bipolar(バイポーラ)プロセス、CMOSプロセス、DMOSプロセスの3種のプロセスを同時に実現する製造技術で、ルネサスでは「BiCDMOSプロセス」と呼んでいる。一般に、バイポーラは高精度のアナログ回路に、DMOSは数十Vクラスの高耐圧素子に、CMOSはロジック回路に向く。BCDプロセスは、これらの回路/素子に応じたプロセスを用いながら、従来別個だった各回路/素子を1チップ化できる利点がある。
BCDプロセスは、民生/産業機器分野だけでなく、車載用途でも広く使われる技術。特に、モーターの駆動と制御機能を1チップ化できるため、車体制御分野で広く利用されつつある状況だ。
これまで、ルネサスは150nm世代のBCDプロセスを持ち、マイコンと高耐圧/高精度のアナログ/パワー回路を1チップ化した車載向けデバイスを提供してきた。ただ、STMicroelectronicsなどは、既に110nm世代のBCDプロセスを自動車向けデバイスに展開していた。
2015年、車載半導体シェア首位から3位へ転落?
調査会社のIHSによると、2014年の世界車載半導体シェアは、ルネサスが10.4%で、Infineon Technologiesに1.1ポイント差をつけて首位。ただ、Infineonは2015年1月にInternational Rectifierを買収しており、ルネサスをかわす見込み。さらにシェア5位のNXP Semiconductorsによる、同4位のFreescale Semiconductorの買収が2015年内に完了すれば、ルネサスは世界車載半導体シェア3位にまで転落する見込みだ。
順位 | 社名 | 2013年売上高 | 2014年売上高 | 2013年シェア | 2014年シェア | 前年比 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ルネサス エレクトロニクス | 2916 | 3032 | 11.1% | 10.4% | 4.0% |
2 | Infineon Technologies | 2420 | 2702 | 9.2% | 9.3% | 11.7% |
3 | STMicroelectronics | 1976 | 2144 | 7.5% | 7.4% | 8.5% |
4 | Freescale Semiconductor | 1846 | 2093 | 7.0% | 7.2% | 13.4% |
5 | NXP Semiconductors | 1640 | 1861 | 6.2% | 6.4% | 13.5% |
6 | Robert Bosch | 1547 | 1621 | 5.9% | 5.6% | 4.8% |
7 | Texas Instruments | 1420 | 1605 | 5.4% | 5.5% | 13.0% |
8 | ON Semiconductor | 756 | 1069 | 2.9% | 3.7% | 41.4% |
9 | 東芝 | 699 | 729 | 2.7% | 2.5% | 4.3% |
10 | Micron Technology | 463 | 706 | 1.8% | 2.4% | 52.5% |
その他 | 10659 | 11422 | 40.5% | 39.4% | 7.2% | |
合計 | 26342 | 28984 | 100.0% | 100.0% | 10.0% | |
2014年における、車載半導体メーカーの売上高ランキング。単位は百万米ドル 出典:IHS |
車載半導体の主力製品分野であるマイコン領域に限っては、首位を維持する見通しだが、マイコンに並ぶ製品分野であるアナログ/パワー領域では、Infineonなどの後じんを拝している。ルネサス常務の柴田英利氏も「欧州の強力な競合に比べ、アナログ/パワー分野は後手に回ってしまっている」と認める。
その中で、「現状、車載向けで量産しているのはわれわれだけ」(柴田氏)とする90nm BCDプロセス技術で、アナログ/パワー分野でのシェア拡大を狙う方針。柴田氏は「90nm BiCDMOSプロセスは、多くの自動車メーカーから評価を得ている。車載分野は、提案から売り上げ計上までに時間のかかる分野で、急な(売り上げ/シェアの)拡大は見込めないが、数年掛けて成長していく」とし、90nm BCDプロセスを核に巻き返しを図る。
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