次々世代のトランジスタを狙う非シリコン材料(2)〜ゲルマニウムの復活:福田昭のデバイス通信(34)(2/2 ページ)
前回は、シリコン(Si)を代替する半導体材料の候補を紹介した。今回はゲルマニウム(Ge)をチャンネル材料とするMOSFETの研究開発の歴史と現状を紹介する。歴史上、初めてのトランジスタの材料はシリコンではなく、ゲルマニウムだった。
Geトランジスタ研究の現状
ゲルマニウム(Ge)をシリコン集積回路のすべて、あるいは一部のトランジスタで採用するとなると、まず問題となるのがGeとSiの格子不整合(格子定数の違い)である。Siウェハー上に直接、Geの薄膜を成長させると格子定数の違いによってGeに応力が加わり、薄膜が歪む。歪みは結晶の欠陥を引き起こし、トランジスタの動作に悪影響を与える。
Si結晶の格子定数は0.5431nm、Ge結晶の格子定数は0.56754nmなので、両者の間には約4.5%の違いがある。この違いはかなり大きい。この違いを緩和するために、SiウェハーとGe薄膜層の間にバッファー層を入れることがある。代表的なバッファー層は絶縁体層である。
格子定数の違いを緩和する、もう1つの方法は、SiGe混晶を使うことである。Geの組成比をxとすると、SiGe混晶の格子定数は「0.5431nm+x×0.02nm+xの2乗×0.0027nm」となる。例えばxを0.3と仮定すると、格子定数は0.5493nmとなり、格子不整合は0.14%とわずかで済む。
将来の半導体トランジスタを狙ったGeトランジスタの研究は、p型MOSFETを対象とした成果が多い。これはSiのキャリア移動度が電子で約500cm2/Vs、正孔で約100cm2/Vsと正孔が低く、p型シリコンMOSFETの性能が比較的低いことによる。言い換えるとp型MOSFETであれば、GeがSiを置き換えやすい。
試作されたGeのp型トランジスタのキャリア移動度(正孔移動度)は、Si基板あるいは絶縁層基板でSi p型トランジスタの2倍〜4倍くらいの値が得られている(構造が特殊なナノワイヤを除く)。バルクでは5.1倍の違いがあるので、さらに高い移動度を実現する可能性は残る。
またこれからは、電流駆動能力を示す相互コンダクタンス(Gm)や高周波特性(fT)などの評価結果が公表されていくだろう。今後の研究成果を期待したい。
(次回に続く)
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