人の思考を読み取る? 次世代のスマート義肢:脳内“エラー信号”を利用(2/2 ページ)
脳波で動かす義肢の開発は、長年にわたり進められてきた。今回、スイスのローザンヌ工科大学(EPFL)は、脳が何らかの情報を“誤り”だと認識した場合に発せられる電位「ErrP(Error-related Potential)」を使って、義肢など人工装具を操作する方法を開発した。人工装具を思い通りに動かすことが、これまでよりも格段に簡単になる可能性がある。
治療法の“パラダイムシフト”が起こる?
Millán氏の研究グループの専門分野であるBMI(Brain Machine Interface)は、これまでにも数多くの患者をサポートしてきた。今回、ErrP信号を利用することにより、BMIのこれまでの成果が、世界中の何千人もの患者に広がっていくことになるだろう。特に、英国の高名な理論物理学者であるStephen Hawking(スティーブン・ホーキング)氏のように、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患っている人々にもサポートが拡大していくとみられる。
EPFLが開発中の人工装具は、患者の脳からErrP信号が放出されている限り、患者の命令を実行するための学習を行うことができるという。
ErrP信号を検出することで実現する次世代のBMI技術では、脳波(EEG)などのように、脳活動の全領域を感知する必要がないため、機器の構造を簡素化できる可能性がある。また、無意識に放出されているErrP信号を検出するだけで、EEGを使った学習では不可能とされていた複雑な動きも実現できるようになるという。
Millánは自身の発明を、「治療法における“パラダイムシフト”」と呼ぶ。同氏は、ErrP信号を使った義足などで、ErrP信号を受信するたびにその信号パターンを学習し続け、最終的には、患者が思う通りに正しく動かせるようになることを目指すという。
ロボットアームを使った実験も
EPFLでは、ロボットアームを使った実験を行った。被験者には、特定の位置にある対象物を認識してもらい、それをロボットアームにその対象物がある位置を正しく指摘させるというものだ。ロボットが間違った位置を指すと、ErrP信号が出るので、ErrP信号が出ない位置をロボットが探していくことになる。ロボットアームと被験者は、約2m離れている。この実験では、ロボットアームが「正しい対象物の位置はどこなのか」を学習するのにかかった時間は平均25分だったという。
ErrP信号を使って、ロボットアームは、対象物の正しい位置がどこかを“学習”するという。画像内の緑の小さな四角が「正しい対象物」。ロボットアームはオレンジの四角をたどりながら、「正しい対象物」を探していく 出典:EPFL
この方法は、脳波を解釈しなくてはならない従来の方法に比べて、より多くの人々に使われるようになる可能性がある。
詳細に関しては、英国科学誌「Nature(ネイチャー)」の姉妹誌であるオンラインジャーナル「Scientific Reports」が無償で公開している論文「Teaching brain-machine interfaces as an alternative paradigm to neuroprosthetics control(人工神経制御の代替パラダイムとしてのBMI教育)」を参照いただきたい。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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