半径3μmでシリコン光導波路を曲げる技術:光ファイバーとの結合を容易に
産業技術総合研究所(以下、産総研)は2016年1月28日、シリコン光配線の先端を小さな曲げ半径で垂直方向に立体湾曲させる技術を開発したと発表した。シリコン光回路のウエハー面に対し垂直な方向で光を入出力できるため、光ファイバーや光部品と容易に結合できるようになる。
産業技術総合研究所(以下、産総研)は2016年1月28日、シリコン光配線の先端を曲げて垂直方向に立体湾曲させる技術を開発したと発表した。曲げ半径は、数マイクロメートルと小さい点が特長。シリコン光回路のウエハー面に対し垂直な方向で光を入出力できるため、光ファイバーや光部品と容易に結合できるようになる。
シリコン材料を光学材料として利用するシリコンフォトニクスの実用化を目指す研究が行われる中で、シリコンフォトニクスデバイスのシリコン光配線と、光ファイバーなどの外部光部品を高効率に結合する技術の確立が必須となっている。高効率な結合技術としては、シリコンフォトニクスデバイスウエハーの表面で結合する方法が模索されている。表面光結合は、光部品実装コストを抑制できる他、ウエハー段階で検査が行えるなどの利点があるためだ。
これまでは曲げ半径30μm程度だったが……
表面光結合を行うには、ウエハーに対し水平方向に構成されるシリコン光配線の光の向きを何らかの方法で垂直方向に変える必要がある。その1つの方法として回折格子を用いた方法があるが、波長/偏光依存性があるといった欠点がある。そうした欠点のないもう1つの方法として、光導波路の先端を垂直方向に曲げる方法がある。2011年には米オハイオ州立大が、MEMS技術を利用し、曲げ半径100μm程度の立体湾曲シリコン配線を作製したが、「極めてアスペクト比が高い不安定な構造で実用的ではなかった」(産総研)という。また産総研も2013年にイオン注入技術により、曲げ半径30μm程度の立体湾曲シリコン光配線の作製に成功していたが、「実用的とはいえない大きさであった」(産総研)とし、小型化が大きな課題となっていた。
片持ち梁(はり)構造
そうした中で、産総研は、シリコン光配線の先端部の周囲の石英ガラスクラッド材料を除去してシリコン材料を露出させた「片持ち梁(はり)構造」を形成した後、イオン注入を行い立体湾曲させる方法*)を開発。さらに、従来よりも、イオン注入量を増やすことで、約3μmというこれまでよりも大幅に小さい曲げ半径で立体湾曲光結合器を実現した。
*)立体湾曲配線を構築後、石英ガラスクラッド材料を製膜する。
産総研では、シリコン光回路の入出力端にこの立体湾曲光結合器形成したテストチップを試作。ウエハー表面垂直方向から接近させた光ファイバーと光結合させて性能を評価した。その結果、「光結合損失値が最小で約2dBという高効率の光結合が、1535nmから1610nmの広い波長領域でほぼフラットな波長特性で得られることを確認した」とし、入射角度依存性と偏光依存性も小さいことも判明したという。
「直ちに応用可能な特性」
開発した技術について産総研は、「ウエハー段階での検査用途に直ちに応用可能な特性を持っている。特に波長依存性、偏光依存性、入射角度依存性が小さいという特性は、検査技術の機構的許容度を大幅に増すので、検査用途から実用化を目指す。また、各種光部品の表面実装のための要素技術の開発も順次進めていく」としている。
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