“時代遅れのIC”で勝機をつかむ中国勢:製品分解で探るアジアの新トレンド(4)(2/2 ページ)
今回紹介するD2Mのデジタル・フォトフレーム「Instacube」には、中国製のチップがぎっしりと詰まっている。なぜ、これらの中国メーカーはデザインウィンを得たのか。
増加する中国製チップの採用例
中国製チップの採用事例は、特に2014年以降、増加の一途をたどっている。それには、大きく2つの理由がある。1つはAllwinnerのチップに代表されるデジタルSoC(System on Chip)である。中国にはAllwinnerの他、Rockchip、HiSilicon、Vimicro、Spreadtrum Communications、TCHIPなど数多くのデジタルプロセッサメーカーが存在する。その多くは2010年以降に大きな成長を遂げている。中国製のタブレット、スマートフォン、ガジェットなどに採用されているからだ。
デジタルプロセッサでの成功が一気に進んだのは上記のような市場が花開いたことと、ARMコアを代表とする機能IP(Intellectual Property)の普及によるところが大きい。機能IPを買って来れば、ほぼチップは完成するからだ。
もう1つは、リアルタイムクロックやオーディオパワーアンプ(ビープ音を出すだけのようなものも含め)など、単体でのICチップが増えたことである。プロセッサを上位とすれば、IC群は下位機能になる。上位は資金を持つメーカーが続々と新規プロセッサを作り、下位のICは雨後のたけのこのごとく続々と生まれ、Instacubeのような製品に採用されていく。チップの機能として上位、中位、下位があるとすれば、上位と下位からジワジワと採用を増やしているのが、中国半導体メーカーの一つの姿である。
やや“古い”チップを大々的に売り出す中国メーカー
図3はAllwinnerが発表する「A13」のブロック図と当社でチップ開封を行った「A13」のチップ図面である。CPUコアとしては、やや古い「ARM Cortex-A8」、GPUコアとしてもやや古く非力な「ARM Mali 400」が実装されている。また採用されるプロセス・テクノロジーも現在最先端の14nm/16nmから見れば、4世代も古い65nmプロセスである。
65nmでARM Cortex-A8を最初に製品化したのは、米国Texas Instruments(TI)のプロセッサ「OMAP3(3530)」で、これは2009年に発表された製品なので、およそ6年前の仕様である。しかし今、Allwinnerはローエンド市場向けにA13を大々的に売り込んでいる。中国IoT市場向けにAllwinnerが提供するキットモジュール「R8」にも、A13が採用されている。R8は、2015年に発表されたもので、9米ドルで販売されている。
では、ARM Cortex-A8は古く、65nmは最先端ではないから、使えないのだろうか?
むしろ逆である。
多くの製品に適用されたことで技術がこなれ、減価償却が進んだ65nmで、コストと性能の関係が最大化しているからだ。またライセンス料が高い最新機能IPのライセンスに比べて、過去にピークを迎えた、比較的安価なCPUコアを使うことで、最終製品の低コスト化を実現できている。
Instacubeは、画像を表示するだけの、いわば使い方が限定されたデジタル・フォトフレームである。最先端のチップも通信機能も必要ない。そうした機器に搭載できる最適なプロセッサは、中国メーカーから調達するしかないのが実情なのだ。多くの日本メーカーも2010年前後は、同仕様のチップを提供していた。しかしそれらは瞬く間に寿命を迎え、今は供給されていない。米国も欧州も同様である。
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