求む、「スーパーメモリ」:福田昭のデバイス通信 ARMが語る、最先端メモリに対する期待(16)(2/2 ページ)
ARM Researchの講演内容を紹介してきたシリーズ。完結編となる今回は、ARMが「スーパーメモリ」と呼ぶ“理想的なメモリ”の仕様を紹介したい。現時点で、このスーパーメモリに最も近いメモリは、どれなのだろうか。
「スーパーメモリ」の候補技術
「スーパーメモリ」の目標仕様をもう少し詳しく見ていこう。必須の要件は不揮発性メモリであること、製造プロセスがCMOSロジックと互換であること、記憶容量当たりの製造コストがDRAMに近いこと、データの読み書きを高速に実行できること、データの書き換え可能な回数が10年の使用に耐えること(具体的には10の15乗回以上)、動作時の消費電力が低いこと、高い電源電圧を必要としないこと、などである。
スーパーメモリの候補は既に存在する。1つは「スピントルク注入型磁気メモリ(STT-MRAM)」、もう1つは「抵抗変化メモリ(RRAM)」である。
データ読み書きの高速性と書き換え可能回数のバランスで見ると、SRAMとDRAMはいずれも非常に高い位置に来ており、バランスが良い。一方でNANDフラッシュは書き換え回数の制限があり、なおかつ書き込みに時間がかかることから、低い位置にレイアウトされてしまう。
スーパーメモリの候補であるSTT-RAMは、SRAMとDRAMに近い高速性と書き換え可能回数を有する。RRAMは書き換え可能回数と速度とも、やや劣る。
またデータ読み出しの容易さ(Readability)と電源電圧のバランスでみると、RRAMが非常に良い位置につけている。STT-RAMは読み出しの容易さではかなり劣る。
最終勝者は誰か
続いてシリコン面積とビット書き換えエネルギーのバランスで見ると、SRAMとNANDフラッシュの違いが良く分かる。SRAMはビット書き換えエネルギーが非常に低いにもかかわらず、シリコン面積では最も大きくなってしまう。逆にNANDフラッシュはシリコン面積が最も小さいにもかかわらず、ビット書き換えエネルギーが最も大きい。
この点でSTT-RAMとRRAMはいずれも、かなり良いバランスを保っている。シリコン面積はそこそこであり、書き換えエネルギーはNANDフラッシュに比べるとはるかに低い。
最後に製造コスト(シリコン面積とプロセスの両方を含む)とデータ保持時間のバランスを見ていこう。データ保持時間が長く、製造コストが低いのはNANDフラッシュとRRAMである。いずれもスーパーメモリの仕様をほぼ満足している。STT-RAMはデータ保持時間に改良の余地がある。
STT-MRAMとRRAMのいずれかが「スーパーメモリ」になるのか。それとも別の技術がこれから登場し、ダークホースとなるのか。あるいは、誰も最終勝者にはなれないのか。行方はまだ分からない。
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